#4ふ、服を脱がされるっ!
「でも価値が分からないし」
「い、いいですか? 金貨一枚あれば一般的な三人家族が一年働かずに暮らせます。ちなみに家賃の方は平均より少し高い程度かと銀貨五枚程度が一般家庭の平均収入ですのです」
三人家族が一年遊んで暮らせる金額が十倍……。日本円に戻すとどれくらいだろうか? 三千万とか?
さっとルナの顔から血の気が引いていく。
「むむむ、無理ですっ!」
「無理じゃないよ。錬金術師は名が売れれば儲かるからね。特にルナ。あんたほどの才能の持ち主であれば、知名度さえ上がれば一年も立たずに返せるだろう。精々その手腕と容姿で錬金術ギルドを再興させてくれ」
「ほ、本当か? ばばっ……ギルド長」
「今ババアって言いかけたかい? 慰謝料を金貨五十枚とかにしても良いんだよ?」
「すみませんでしたっ」
ルナは素早く頭を下げた。その隣でステラも頭を下げているのが目に映る。
そんなルナとステラの謝罪を見てアリシアは不機嫌そうにとある建物に指を指した。
「ふん。まぁいい。ここだ」
そう言ってアリシアが指差した家はおしゃれとはいい難い木造の家で、一階と二階で別れている建物だった。
「一階は私が趣味でやっている占いの館だ。ちなみにお酒も飲める居酒屋としての面もある。あんたらに貸すのは二階だよ。これが鍵だ」
アリシアはルナへ鍵を放り投げる。それを受け取ったルナは鍵を見つめた。
ごく普通の鍵だ。変なところはない。
「なんだい? 変な魔法なんてかかってないよ。本と錬金釜は後で運んでやる。こっちは無料だ。安心してくれ」
そう言うとアリシアはルナ達をおいて一階の家に入っていった。そしてアリシアを見送ったステラが静かに近づいてくる。
「お金返せるんですか?」
「……無理だろ。ばばっ……ギルド長は大丈夫とか言ってたけど、ギルドに来ていた依頼の数は明らかに少なかった。あれじゃあまともな依頼も無くて餓死確実だ」
「じゃあどうするんですか? 自分たちでお店でも開きますか?」
「うーん。考えとく」
ルナは自分の家となる二階部分を見上げそう言った。
「それじゃあ家に入ろう」
家の外に設置された階段を上り二階へ向かう。鍵を使い部屋に入ると、部屋は大きく分けて二つに分かれていた。
まず扉を開けると玄関と大きな部屋が一つあった。
大きな部屋は右側にキッチンが設置されており、食事が作れそうだ。
更に大きな部屋を突き進むと別の部屋が一つ。ここは個室のようになっており、鍵も掛けられる。大きさ的に寝室にするのが最適だろう。
その部屋の両脇にはドアがあり、片方はトイレ、そしてもう片方はシャワー、浴槽が置かれたバスムームと脱衣所があった。
「シャワーがある……。水は使いたい放題なのか?」
「はい? そんな訳無いじゃないですか。見てください」
そう言ってステラはバスルームの中をキョロキョロ見渡すと、壁に埋め込まれた拳程度の大きさの穴を指差した。
そこは長方形の枠で囲われており、拳程度の穴の両端に魔法陣の様な紋様が描かれている。
ステラはその長方形の枠の穴に手をかざすと水魔法を発動した。
すぐに水が貯まるような音がルナにも聞こえてくる。
「こんな感じでここに水を入れます。そしてその穴の両端にある丸い円に手をかざすと、魔法陣が魔力を吸収してお湯が出ます」
そう言ってステラは丁寧に穴の両端にある二つの魔法陣を指差した。
「魔力ってみんな持ってるのか? みんながみんなこのシャワーを使える訳じゃないだろ? こんなモノが一般化してるのか?」
「いえ、魔法は使える人と使えない人がいますけど、魔力は生きとし生けるものみんな持っています。なのでこの魔道具をつかったシャワーはみんな使えます。魔法が使えない人は水を直接穴に入れればいいんです」
そうステラが言った途端ルナは忘れていた事を思い出し、頭を抱えた。
「あっ。フィーネに魔力の使い方教えてもらうって約束したのに教わってない……どうしよう」
「……仕方ないですね。私が教えます。手を貸してください」
ステラはルナの両手を掴むとギュッと握ってきた。
彼女の手の暖かさにルナはドキドキと心拍数を早める。しかしそんなルナの変化に気が付かないステラはそのまま説明を続ける。
「今からルナに魔力を流します。その流れを感じ取って、覚えてください」
ステラがそう言った瞬間ルナの手から全身へ温かいモノが流れてきた。
暖かな波動は徐々にルナの体の神経を拡張していく様な感覚を与え、くすぐったくなったルナは身じろぎをし始めた。
「んあっ」
変な声が出て思わずルナはステラから手を離すと自分の口元を塞いだ。同時にステラの蔑むような瞳がルナを見つめる。
「変な声上げないでくれますか?」
「し、仕方ないだろ? 出ちゃったものはさ……オレだってこんな声出したくねぇよ」
不貞腐れた様に唇を尖らせたルナはそのままバスルームから出ようとする。するとステラはルナの手を再び掴んだ。
「待ってください。魔力の扱いはどうするんですか?」
「あれ以上やられたらまた変な声あげるからいいっ。いいよ別に使えなくても」
「そんなに拗ねないでもください。もう神経に魔力が通ったのであとはイメージだけです」
自分の軽率な言葉でルナを傷つけたと思ったのか、心なしステラは優しくルナにそう言った。
そしてそんなルナの言葉を聞いて再びやる気になったのかルナは自分の手を見つめた。
「本当か? どうすればいいんだ?」
「心臓から流れる血液を全身へ広げるイメージをしてください。そうすると魔力が生まれます。とりあえずやってみてください」
「分かった」
ステラに言われた通りのイメージをすると、ルナの胸の奥、心臓から何かが湧き上がるような感覚が生まれた。
それを先程ステラの魔力が流れていった神経へ流すと、驚く程すんなり体の中を何かが駆け抜けた。
「おぉ。これが魔力か? ちょっと試してみよう」
ルナはバスルームの魔力供給口に手を伸ばす。その瞬間ステラが慌てた様子でルナを止めようと手を伸ばした。
「ちょっ……今水入れたばかりっ」
そう言った時には時既に遅し。ルナは魔力供給口に手を触れ、次の瞬間シャワーヘッドから大量の水がルナとステラに降り注いだ。
「うひゃっっ。つ、冷たっ」
「ルナのバカっ!」
二人の声がバスルームに響き、すぐにルナとステラはびしょびしょの姿でバスルームから出てきた。
「うぅっ。寒っ」
「当たり前です。すぐに服を脱いでください。乾かしますから」
そう言ってステラがルナの服に手をかけた瞬間、ルナの顔から血の気が引いた。
「こ、断るっ! この服脱ぐくらいなら風邪引く方がマシだ」
「何言ってるんですか。いいから脱いでくださいっ」
「ヤダっ。これを脱いだら男として終わる気がする。絶対に脱がないからなっ」
「じゃあお風呂とかどうするんですか?」
「そんなもん入らない」
子供のような駄々をこねるルナを見て、腹が立ったのかステラは大きく一歩ルナに近づくと彼女に掴みかかった。
「男なら男らしく服を脱いでくださいっ! どうせ女装してるんですし、脱いだ方がいいでしょ!」
「や、やめろっ。服を掴むな。待って待て。せめて着替えを用意してくれっああああっ」
一瞬で服を脱がされたルナはほぼ全裸状態でその場に投げ出された。
必然的に女になった自分の裸を直視しなくてはいけなくなり、ルナは半泣きになりながら膝を抱えてうずくまる。
「うぅ。オレなんか悪いことしたかな。なんでこうなるんだよ~」
「ルナが話も聞かずに魔道具を起動させるからです。それとこっち見ないでくださいよ。あなたが男って事は分かってるんですから、こっち見たら怒りますからね」
チラチラとルナの方を睨みながら火魔法を使ってステラは自分とルナの服を乾かしつつ、そう言った。
丁度その瞬間、家の扉が開く音がした。誰かが家に入ってきたらしい。
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