#2証拠隠滅
「おい。誰に向かってお嬢さんとか言ってるんだ? 頭撃ち抜くぞ。間違えんなよ。オレは男だ」
男の顔の真ん中に何度か錬金銃の冷たい銃口を突きつけていると、男も焦り始めたのかワタワタし始めた。
「えぇ⁉ お、男? 君が?」
「何だよ? 文句があんのかよ。撃つぞ」
男は驚いた様子でルナの整った顔、膨らんだ胸、しなやかな足、と順々に見下ろしていき、最後にもう一度ルナの顔を見た。
「ほ、本当におと──危なっ」
男の言葉を聞く前にルナは錬金銃を発砲した。発射された弾薬は男の顔の横を通り抜けると遠くへ飛んでいった。
「ちっ。外したか」
「外したかっ。じゃないですよ。町中でなんてものを撃ってるんですか。ほら、こんな男放っておいて錬金ギルドを探しますよ」
慌てて駆けつけたステラが悔しそうに玉を再装填しているルナの手を引っ張る。
「ちょ、ステラ。離せっ」
「離せじゃないです。それからステラって呼ばないでください。ルナが喧嘩というか銃を撃ってる間に人に道を聞いてきたので錬金ギルドの位置は分かっています」
そう言ってステラはルナの手を掴んだまま、ルナが銃を発砲した方向へ歩き始めた。
どうやらナンパ男が声をかけてきた時点で男を無視して、道を聞いていたらしい。
「どうしてあんなに喧嘩っ早いんですかっ。私が道を聞いていた僅かな間に発砲までするって喧嘩っ早いどころじゃないですよ?」
「いや、だって女の子扱いされたらキレるしか無いだろ? オレは男なのにさ。これでもアドルフに女の子扱いされてた時は我慢してたんだぞ。それに撃ったのはアドルフに貰った対人用の無力化弾だし。オレ悪くないもん」
「可愛く言っても無駄です。やってる事は凶悪犯ですよ。誰かに当たったらどうするんですか」
「大丈夫だろ。あんなモノ当たるやついないって。──おっ。看板が見えてきた。あれが錬金術ギルドだ……な」
ピタリ。ルナとステラの足は寂れた錬金ギルドの扉に触れるよりも前に止まった。
「る、ルナっ。あれ! あれ‼」
血相を変えたステラは同じく顔を真っ青にしたルナの肩を激しく揺さぶりながら細い指を錬金ギルドの入り口へ指す。
その指の先には緑髪の女性がうつ伏せに倒れていた。それだけならまだいいが女性のまわりは真っ赤な液体で濡れており、近くに白い弾薬が落ちていた。
白い弾薬──ルナにはその弾薬に心あたりがあった。ついさっきナンパしてきた男に向かって撃った弾だ。
「だだだだだ、大丈夫だ。取り敢えず隠れる所を探そう。偉い人が言ってた。バレなきゃ犯罪じゃないって」
そう言いながらルナは近くに落ちていた木箱に頭から入ろうとしていた。
しかし木箱の深さは数十センチ程度しか無く、到底隠れることは不可能だった。
「何してるんですか。早く助けなくちゃ」
「いや、でも無理じゃね? 一面真っ赤だし。手遅れだって。お墓を作った方がいいって」
最終的に木箱を頭からかぶりヘルメットのようにしたルナは真っ青な顔で倒れた女性を恐ろしげに見つめながらそう言った。
「というか、あれをオレがやった確証ないじゃん」
「でもそこに弾丸が……」
「なるほど……」
真剣な顔をしたルナは地面に落ちていた白い弾薬を拾い上げる。
「そいやっ!」
ルナはそのまま拾った弾薬を遠方へ放り投げ、ステラの方に親指を立てた。
「よしっ。やったぞ!」
「よしじゃないです‼ 平然と証拠隠滅しないでください! 反省してください猛省してください自主してください。ほらっ衛兵さんの所行きますよ」
「いやだぁっ。そもそも対人用の無力化弾だぞ? あんなに血が出てるのおかしいって……そうだよ。あれ絶対死んでないって」
「でもピクリとも動きませんよ?」
ステラは未だにうつ伏せで倒れたままの女性を恐ろしげに見つめていた。
「ちょ、ちょっと確認してくる」
そう言ったルナは足音を立てない様に慎重に女性まで近づき、指先で少しだけ突いてみた。
「あの~? 大丈夫ですか? 生きてますか? 生きてたら生きてますって言ってください。死んでたら死んでるって言ってもらえれば結構ですので……いや、死んでたら喋られると怖いんでやっぱいいです」
なんて事を言って、倒れた女性の反応がない事を確認すると、そのままルナは立ち去ろうと踵を返した。その瞬間突然ルナの足を何か冷たいモノが掴んだ。
「えっ」
嫌な汗が流れ落ちるのを感じながらルナはゆっくりと顔を女性の方へ向ける。視線の先では倒れていた女性が液体に濡れ真っ赤になった顔をルナに向けてきた。
「あんたがやったのかい?」
「ひっ」
女の子のような声を出したルナは目の前の真っ赤な姿の女性が動き出した事に混乱して固まった。
呪い殺される! ルナの頭は混乱していた。
しかし女性はルナの想像とは違い、ルナの太ももを凝視していた。
「ふむ。錬金銃か」
女性が興味深そうにそう言ったのを聞き、ルナは護身用に貰った錬金銃を奪われると思いスカートを抑え込むようにしてすっと手で隠した。
「い、いや……たまたま持ってただけで~」
「まぁいい。ついて来てもらおうか。割れた魔法薬の弁償もある」
どうやら赤い液体は血ではなく魔法薬だったらしい。
それが分かってほっとする気持ち反面、これから何が起きるのだろうという恐怖もあり、ルナは手を引かれながら、絶望的な顔をして錬金ギルドへ連れ込まれた。
ルナに続けてステラも錬金ギルドへ入る。
「そこに座りな」
ルナはカウンターの近くにあった椅子に座らされると、女性にビシッと指を差された。
「逃げるんじゃないよ? 私は着替えてくる。逃げたら地の果てまで追いかけるからね」
軽くルナを脅した女性はそのまま錬金ギルドのカウンターの裏へ入っていった。どうやら錬金ギルドの職員か何からしい。
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