#3やっぱり夢オチだな!

「んくぅ? 背中痛い……ってここ何処だ?」


 ルナは寝ぼけた思考で周囲を見渡した。

 自然いっぱいの大地。遮るものの無い青空。きれいな空気。

 地球では見れない光景にルナの目は点になる。


「夢……か?」


 ルナはそう言いながら虚ろ気な目を擦り視線を下に向けた。そこにある二つの丘。


「胸……。やっぱり夢だな。寝よう」


 ルナが再び目を閉じ、夢の世界へ旅立とうとした瞬間、ガタガタと言う騒々しい音と馬の鳴き声が聞こえてきた。


「なんだよ。うっさいなぁ」


 若干青筋を立てながら近づいてくる荷馬車を睨みつけ、ルナは上体を起こした。

 そして近くに紙が落ちている事に気が付く。


「ん? なんだコレ。手紙か? どうせあのジジイの手紙だろ。どれどれ……」


 ルナは手紙を拾い上げると、声に出して手紙を読み始めた。


「えーと。『アトラスにおいて錬金術は悪魔の儀式とまで言われておる禁術じゃ。しかし錬金術によって発展した世界じゃ。魔王の核制作から数百年経ったとは言え簡単に錬金術を捨てられない国がある。トヴァルム王国へ向かえ、そこで錬金術ギルドを再興させるのじゃ』か……トヴァルム王国ってなんだ? 何にも分からないんだけど」


 困り果てたルナは後ろ頭を何度か掻き顔を上げた。


「そもそもあのジジイの戯言に付き合ってる暇は無いんだ。まず男に戻る。それが第一目標だ。この世界とか錬金ギルドなんて問題は二の次。まぁ……男に戻るには錬金術に頼らないといけないみたいだから──仕方がないトヴァルム王国へ向かうか」


 老人の言いなりになっているようで嫌だと思いながら、ルナは老人が示した場所と目的地が同じことに小さくため息をついた。

 丁度その時、一台の荷馬車がけたたましい音を鳴らしながらルナの目の前を通過していく。


「あ……。行っちゃった。何か聞けそうだったのに──仕方がない。馬車が歩いていった方へ行くか……というかトヴァルム王国って何処だよ。どうせなら街の近くに送ってくれればいいのに!」


 と、ルナが声を荒げたその時、ルナの前を走り去っていった馬車が止まった。


「と、止まった。乗せていってくれるかも」


 ルナは驚きつつ馬車の方へ駆け出す。

 しかしルナの足は馬車の荷台に積まれている『荷物』を見てすぐに止まった。

 大きな荷馬車に覆われた布の隙間から見えるのは檻に閉じ込められた数人の少女達。


「ど、奴隷……だよな」


 その瞬間ルナの脳裏に過ぎったのは今、自分の姿は『売り物』として価値がある姿をしているという事だった。


「に、逃げたほうが良いか?」


 ルナは一歩後ずさった。

 その瞬間──。

「待ってください!」


 焦った様子で馬車から降りてきた人がルナに声をかける。

 馬車から降りてきたのは一六、十七くらいの桃色の髪の毛をした美少女だった。

 服はワンピースのような白いドレス。身なりは良く気品がある。奴隷を売り捌き裕福な暮らしをしている奴隷商人に違いない。


 そんな確信を持ったルナは全力で逃げようと踵を返した。


「……逃げよう」

「ちょっと、そこの人! 逃げないでっ」


 美少女の声が後方から聞こえるがルナは既に遥か後方まで走り去っていた。


「奴隷になるなんて冗談じゃない! 奴隷になんてなったら男どもの性処理につきあわされるのは目に見えてるんだよ。オレは男だぞっ」


 ルナがひたすら走っていると、突然ルナの体の横を何かが通り抜けた。


「えっ?」


 驚くルナが後ろに顔を向けると、その瞬間正面から誰かに肩を叩かれた。

 ゆっくりルナが首を正面へ戻すと、そこには先程馬車から降りた美少女が立っていた。

 魔法か? そう思ったルナは警戒を更に高める。


「待ってください。あなたに話があるんですよ」

「──オレにはないんだけど。油断させてオレもあの檻に入れるつもりだろっ。騙されないからな」

「ち、違います。私は奴隷です。確かに渡しの主は奴隷商人ですけど、人を無理やり奴隷にするような事はしないです。それよりもあなたに助けて欲しい事があるんです! どうか私のご主人さまを助けてください!」


 彼女の首には首輪のような入れ墨が入っている。

 それを見てルナは彼女の言っている事が事実だと判断した。それに着ている服からしてひどい扱いはされていないようだ。

 それが分かったルナは少しだけ警戒を解いた。


「……それで? 何を助けて欲しいんだ? 言っとくけどオレができる事なんて限られているぞ?」

「大丈夫です。これでも私、鑑定能力があるので、あなたに錬金術の才能があるのは分かっています。だからどうか解毒剤を作っては頂けませんか?」

「で、でもオレ……才能があるだけで初心者なんだけど──初心者というか何も知らないんだけど……自分で作ったほうが良いんじゃない?」


 解毒剤を作るという事は毒に侵されていると言うこと。人の命を預かる様な真似できる訳がない。

 ルナはそう思い気まずそうに少女から顔を逸らす。しかし少女はルナの手を掴むと力強く手を引いてきた。


「大丈夫です。解毒剤は初歩中の初歩。例え錬金術を行使したことがない人でも材料さえあれば簡単に作れます」

「はぁ……じゃあ自分で作れば良いんじゃ?」

「錬金術は才能がある人にしか行使出来ないんですよ。錬金術の才能そのものが錬金術を行使する権利のようなものです。お願いです。このままじゃあ私のご主人さまが死んでしまします。私ができるお礼ならどんな事でもします。お願いしますっ」


 少女の必死な面持ちを見てルナの心は動き始めた。


「でも、錬金術って禁術じゃないのか? い、田舎に住んでたからよく知らないけどさ」


 途中、少女の顔が『そんなことも知らないの?』と言った不思議そうな顔をしていたので咄嗟にルナは嘘をついた。

 その嘘が効果を発揮したのか少女は納得顔をしてルナの顔を見直す。


「ここはトヴァルム王国の領土です。この国でも錬金術を使用するには資格がいるんですけど、ここは王都からかなり離れた辺境の地。錬金術を使ってもバレません。お願いです。私に出来る事なら何でもします。だから──」

「分かったよ。やってみるよ。その代わり謝礼は弾んでもらうからな?」


 そう言った瞬間少女の顔はぱっと明るくなった。

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