8.天啓

「まだ、広瀬と連絡、取れんのか」

林刑事は、かなり焦って、秋山に詰め寄った。

「うぅぅん」

秋山も当てが外れて、困っていた。

秋山は、三崎課長へ広瀬さんから連絡が来ると見込んでいた。


林刑事は、多田と木崎の殺人事件について、広瀬さんを疑っていた。

警察は、安藤が主導して、浅水病院の金を着服してたと考えている。


安藤は、木崎と多田を利用して、浅水病院から業者への支払を着服した。

早原が、その不正に加担した。


安藤先生と早原の間でトラブルがあった。

芳枝さんは、早原が不正に加担したと思い込んだ。

しかし、証拠は無かった。

芳枝さんほ、早原を退職させた。

そして、潮薬品の野上を事務長として浅水病院へ迎えたという事だ。


安藤先生は、病院内の情報、特に芳枝さんの動向を気にしていた。

また、広瀬さんに接近した。

広瀬さんから、芳枝さんの動向を探っていたらしい。


三崎課長は、遮二無二、安藤先生と噂のあった看護師に接近した。

浅水病院で安藤先生と噂のあった若い看護師と話しをしていた。


看護師は、気付いた。

三崎が持っているサンダルを見て、浅水芳枝先生の物だと云った。


「サンダル!」

秋山は、思い出した。


「そうや。あのサンダルは、院長、浅水芳枝さんのサンダルやったわ」

三崎課長が不思議そうに云った。


秋山は、浅水病院の山下部長の情報から、想像した内容を伝えた。

「早原は、多分、不正に関与しとらんかったと考えとんや」

秋山は、林刑事に云った。

「どういうこっちゃ」

林刑事は、驚いている。

「これは、儂の想像やけど」

秋山は、浅水病院の山下部長から得た情報を元に推理した。


安藤先生と木崎の間で、取り決めた。

擂鉢堂の売掛金の支払について、領収証を改ざんした。

木崎ほ、現金を安藤先生に手渡した。

潮薬品の野上氏が浅水病院の事務長に就いた時期で、木崎は擂鉢堂を退職した。

退職した後、安藤先生を脅迫して、金銭を要求していた。


木崎が安藤先生に金銭を要求していたと、警察は考えている。


安藤先生の部屋から、それらしい物が見付かっている。

卓上カレンダーに、毎月二十五日にキザキと記入して三十を丸で囲んでいた。

木崎が退職した翌月から殺される直前月まで、三十万円を支払っていたと考えられた。

木崎が脅迫していたと思われる。


多田は、梅本薬品を退職した後、どうやって収入を得ていたのか。


早原ではなさそうだ。

そうすると、安藤先生か。

多田も安藤先生を脅迫して、毎月の現金を得ていたのか。

安藤先生は、以後、ずっと脅迫される事を恐れて、多田と木崎を殺したのか。


安藤先生は、多田と会っていたのだろうか。

浅水病院内で、多田は、安藤先生に嫌われていたようだ。

勿論、うわべは嫌われているように、装っていただけかもしれないのだが。


しかし、安藤先生が多田に現金を渡していた形跡は、見付からなかった。


安藤先生から現金を受け取っていなかったとすると。

広瀬さんか。

しかし、多田と広瀬さんには、接点がない。

浅水病院内でも、親しく話しをしていたという事も聞こえてこなかった。

それに、広瀬さんには、多田を支援する余力は無い筈だ。


広瀬さんは、預金通帳から現金を引出した形跡も無い。

三崎課長以外に、誰か相談者が居る。


そうでなければ、これだけ長期に、身を隠す事は、出来ないだろう。


秋山は、浅水病院の応接室のドアをノックした。

どうぞ、と声がした。

入室すると、浅水次期院長と山下部長が居た。

「先生は、広瀬さんを匿っていますね」

秋山は、挨拶もせずに尋ねた。


秋山は、持参したサンダルを見せた。

広瀬さんが退職した後、病院に残っていた物だ。


浅水芳枝さんは、広瀬さんも、以前、安藤先生の不倫相手だった事を知っていた。

古くから、病院に勤めている人なら噂くらいは聞いていた。


いつか、安藤先生と広瀬さんの関係は、終わった。

それでも、広瀬さんを守っていたのは、安藤先生の強権だった。

三崎課長は、安藤先生と噂になっていた看護師に接触した。

その看護師が、三崎課長の持っているサンダルを見て、浅水芳枝先生の物だと云った。

病院内で使用するサンダルの踵、ソール部分に名前を書く事になっている。

勤務する女性は皆、書いている。

ただし、浅水芳枝さんだけは、書いていない。

広瀬さんが履いていたサンダルは、浅水芳枝さんが、渡した物かもしれない。

芳枝さんと広瀬さんは、仲が悪いと思っていた。


「どうして、そのサンダルを持っているの」

芳枝さんが聞いた。


「広瀬さんが行方不明になった時、広瀬さんのアパートまで、野上事務長が届けに来たんです。」

秋山が云った。

「でも、野上事務長は、そのサンダル、私の物やと知っていますよ」

浅水芳枝さんが云った。

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