2.訪問

富樫は、越智課長と一緒に、浅水病院の事務室の奥にある応接室で、書類を確認していた。

午後一時から野上事務長と面会の予約をしていた。


富樫は、浅水病院の支払決裁書を確認していた。

支払決裁書は、原本のようで、擂鉢堂以外の業者の部分は、目張りが施されている。

擂鉢堂の本社で、浅水病院からのファックスを受信していた。


越智課長が、ファックスを持参して、五岳山営業所へ出張って来た。

後は原本と照合して、浅水病院の保管している領収証と照合するだけだ。

支払決裁書の、ファックスと原本を確認したが、間違いは無かった。


事前に支払決裁書のファックスと請求書の入金額を照合していた。

六ヶ月に一度の割合で、支払決裁書の支払金額よりも、請求書の入金額が、百万円程度少ない。

前月請求額より百万円程度の金額は、前月請求繰越額に表示される。

ちょうど、ハヤブサの拡売対象品目と同額になっている。


当月取引高には、繰越額と同額の拡売品目が返品されている。

だから、その翌月には、また、請求額の全額を回収している。


浅水病院は、請求金額の通り、毎月全額、確実に支払っている。

しかし、半年に一度、請求書の金額より百万円程度少ない金額しか、入金になっていない。

領収証の金額も、会社に残っている領収証控と領収確認証の金額が、百万円程少ない金額になっている。


木崎以前の担当者の時に、不自然な取引は無かった。

この状態は、木崎が担当するようになった翌年から、六年間続いていた。

百万円ずつ、年二回、年間で二百万だ。

六年間で一千二百万円。実際の金額も確定している。


その一千二百万円の現金は、どこへ消えたのか。

木崎が着服したのか。

しかし、支払決裁書の支払金額と、請求書の入金額に差額が生じていたら、浅水病院側でも気付くだろう。

会社にしても、得意先から指摘されない限り分からない。


現に、野上事務長は、過去の支払決裁書と請求書を照合して、差額を見付けている。

それでは、野上事務長の前任者、早原事務長が、何か関わっていたのか。


富樫は、もう、確認を終えていた。

実際に資料を受け取っていたので、事前に確認は終わっている。


木崎も早原事務長も、同時期に退職している。

偶然なのか。それとも、二人は、共犯なのか。

困ったことになったのは間違いない。


越智課長は、野上事務長と話をしている。

今後の処理について打合せしている。


会社としても、警察沙汰にせず、極秘裏に処理したいのは分かる。

こんな事が、公になったら、会社の信用がなくなる。

得意先から取引停止になる可能性もある。


浅水病院も同じだ。

現在、まだ、早原氏の関与は不明だが、少なくとも、請求書の入金額と支払決裁書の金額に相違がある。

調査が終わるまでは、動きが取れないだろう。


ノックの音がして、ドアが開いた。「入るよ」と云って、男が二人入って来た。

越智課長も、野上事務長も直立した。二人とも丁寧にお辞儀をした。

富樫も越智課長に倣って、立ち上がると、慌ててお辞儀をした。


男の一人は、応接室の奥の席に着いた。

白衣の男は、野上事務長を手招きすると、何か耳打ちしていた。

そのまま、「じゃあ」と云って、すぐに出て行った。


「おい。失礼しよう」

越智課長が、富樫を誘って、慌てて退出を促した。

「どうも、失礼しました」越智課長と一緒に、富樫はドアで挨拶して出て行った。

事務室には、竹井MSが待っていた。


「トガ。先に車で待っといてくれ。ちょっと竹井と話がある」

越智課長は、竹井MSと階段脇の自販機コーナーのソファーで何か話を始めた。

富樫は、正面玄関へ向かった。


午後三時半までということだったが、大幅に超過してしまった。

あの白衣の男は、越智課長と野上事務長の丁寧な態度を見ると、院長先生かもしれない。


応接室の奥の席に着いた男は誰だろう。

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