6.迷彩
「どうや。分かったか」
越智課長が、富樫に挨拶替わりの言葉を云った。
「いいえ」富樫は、越智課長にメールで報告している。
一見、拡売報奨金目当ての架空売上のような取引だ。
製薬会社のハヤブサが企画した、拡売コンクールに限って、架空売上らしい拡売対象品目が納入されている。
翌月、架空売上らしき拡売対象品目は、返品処理されている。
だから、報奨金の対象外だ。
木崎が使用した領収証綴から昨年四月の、領収証控の金額を確認した。
五月の請求書に計上されている入金額と、同じ約五百万円の金額になっている。
領収確認証も入金リストも、同じ金額になっている。
領収確認証には、得意先から確認印を頂くことになっている。
確かに、浅水病院のゴム判が、押されている。
異常はなかった。
MSは、各得意先の集金物と各得意先の領収確認証を入金確認書に金種ごとに、集計して営業事務課の経理担当へ提出する。
経理担当は、入金確認書が、集金物と領収確認証と一致している事を確認する。
経理担当が照合して一致すれば、領収確認証を事務課のデータ入力担当へ提出する。
データ入力担当が、領収確認証を見て、オンライン端末に入力する。
データ入力担当は、入金リストを出力して、領収確認証に入金リストを添えて、経理担当へ提出する。
経理担当は、領収確認証の合計金額と、入金リストの合計金額が一致している事を確認して、それぞれ組紐で束にして保管する。
だから、入金額に差異が発生しているとすれば、得意先に提出している領収証と、会社に残っている領収証控、領収確認証の金額に違いがあるとしか、考えられない。
もう、得意先に直接状況を確認する以外、方法が分からない。
越智課長には、そうメールで報告している。
おそらく、浅水病院を訪問するために、越智課長が出張してきたのだ。
越智課長が、五岳山営業所に来ている事は知っていた。
朝、出勤すると、越智課長の車が駐車場にあったからだ。
二階の受付を通って、自動ドアを入ると、ワンフロアの事務所になっている。
事務所には、営業部営業一課から六課までと営業事務課が入っている。
営業部の壁際に、応接室二室と会議室四室が並び、パーテーションで仕切られている。
小応接室のドアは閉まっている。
越智課長は、所長か本部長と、あるいはその両方と打合せをしているのだと思っていた。
富樫が小会議室へ入ると、案の定、すぐ隣の小応接室のドアが開いた。
所長と越智課長が出て来た。
挨拶を交わすと、越智課長が富樫を喫煙室に誘ったのだった。
もうすぐ始業のチャイムが鳴る。
「今、本社へ東さんを呼んで、決算整理を手伝ってもらっている」
越智課長が、意外な事をいった。
何時も富樫は、越智課長に驚かされている。
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