立夏

チッ。

県境の道の駅。店長はやっとトイレ掃除を終えた。

アルバイトの店員に今日、休みを取るように云った。

ゴールデンウィーク明けに、休日を取らせる事にしていた。

年末年始も休ませていなかった。文句も云わずに真面目に働いてもらっている。


休まれてみると、ちょっと大変だ。

花見シーズンが終わって、すぐにキャンプシーズンに入った。

桜の街路樹を囲む躑躅が咲いている。

道路沿いの花は、はっきりとした赤色だが、崖の下の公園の躑躅は、薄紅色に白色が混じった花の色だ。


ゴールデンウィークには、崖の下でキャンプ場が賑わっていた。

ゴールデンウィークは終わったというのに、まだキャンプ客がいる。しかも

キャンプ場に水道設備は無い。

道の駅のトイレの洗面台で、キャンプ用品を洗ったりしている。

だからこの時期のトイレは、泥だらけになっている。

つい、舌打ちがでるのも仕方ない。


店長は、十時半に出勤して、広告の幟を立てると、駐車場とトイレの掃除をした。

店舗の準備が終ると、もう昼時だ。軽食の準備は女性店員が手早く終わらせていた。

それでも、来店客がひと段落したのは午後三時だった。


ふと、駐車場を見た。

定位置に、いつもの県外ナンバーの車が停まっている。

おかしい。

ゴールデンウィークなのに、しかも、今日は日曜日なのに来ている。

さりげなく車の中を見た。

すると初めてだ。

座席シートを倒して横になっている。

店長は、ずっと忙しかったので、男が車から出て来て、いつもの行動を繰り返していたのかどうかを見ていない。

何かあったに違いない。


いつもの男を見付けてしまってからは、気になって、つい目の片隅で見ていた。

男がトイレに入って行った。

トイレから出ると、喫煙場所へ向かい、煙草を喫っている。

喫煙場所から、また、車に戻って行った。

服装は、いつもと同じ、濃紺のジャンパーと深緑色の作業ズボンだ。

今日も夕方五時に道の駅を県外の方向へ帰って行った。

店長は、少し安心した。

男が、いつも通りの行動を繰り返し、いつも通りの時間に帰って行ったことが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る