4.検問
ゴールデンウィーク明け、久しぶりに秋山は本社へ出勤した。
経営企画部の横田企画課長と架空売上調査の報告と今後の方針について打合せをした。
打合せを終えて、帰宅途中だった。
日付が変わる少し前に、住宅街の一画にある月極駐車場に向かう途中だった。
若い警察官が、前方の路側帯で停車するように、誘導棒で指示している。
一台の車が、路側帯で停車していた。検問しているのだ。
若い警察官に誘導されるまま、路側帯で停車した。
前に停車していた車が発進して行った。もう一人、警察官が誘導している。
前の車で職務質問していた警察官が秋山の車の後方へ回った。
「免許証を拝見いたします」窓を開けると中年の警察官が云った。
後方に車は停まって居ない。後方で二人、前方では一人の警察官が、じっと佇んでいる。
秋山は、云われるがまま免許証を見せた。
続けて、車検証の提示を求められたので、ダッシュボードから取り出して見せた。
「どちらへ行かれていますか?」中年の警察官から職務質問を受けた。
「自宅の駐車場です」
「駐車場はどちらですか?」
「この道をまっすぐ行って二つ目の角を曲がった駐車場です」そこまで聞かれるのか?
「お住まいの近くですか?」
「はい。歩いて十分くらいです。アパートに空きが無かったんです」言い訳する必要は無かったかもしれない。
「はあ、はあ、はあ。今、お仕事の帰りですか?」質問の内容が変わった。
「そうです」
「お帰りになるのは、いつもこの時間ですか?」
「普段はもっと早いです。いつもは七時くらいです」何か事件があったのか?
「今日はお仕事が遅かったのですか?」
「はい。会議があって遅くなりました」また言い訳する格好になった。
「それでは、先月の三十日にこの時間にここを通っていませんか?」
「ええっと」急に尋ねられても覚えていない。
「ひき逃げ事件があった日なんですけど。覚えていないですか?」
そう云えば、ニュースで見たように思う。すぐ近くだと思った。
「三十日は実家に居ました」そうだ三十日は、土曜日だから、お祖母さんと食事をして実家で一泊した。
「どこで事故があったんですか?」秋山は質問の逆襲を試みた。
「その公園の角に半鐘塔があるでしょ」秋山の位置から半鐘塔が見えている。
「あの角を左折した辺りです。実家へはよく帰られるのですか?」また質問だ。
毎週、土曜日は実家へ帰っている。
そう云おうと思っていると、後方から近づいて来た自動車を路側帯に誘導する若い警察官が、秋山に貼り付いている中年の警察官に何か合図をした。
「はい。ご協力ありがとうございました」中年の警察官が、もう興味は無いと云わんばかりに、車を移動するよう促した。
後方の自動車が路側帯に誘導されている。
秋山は解放された。
ゆっくりと車を発進させて、駐車場へ向かった。
秋山は中年の警察官に暇潰しの話し相手にされていたのかもしれないと思った。
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