3.調査

調査を開始して五日。

秋山は百々津営業所の二階、営業の第三会議に資料を持ち込んで調査している。

「どんなんや。分かったか」

三井所長が会議室のドアを半開きに押し開けて秋山に尋ねた。

「はい。分かりました」秋山は答えた。

中村MSの架空売り上げの全貌は分かった。


手口は極めて簡単だった。

当たり前だが、商品を得意先へ納品した際に受領書に受領印を押印、またはサインをしてもらう事になっている。

浅水病院は、野上事務長が、商品を検品して受領書に押印する事になっている。

中村MSは、架空売上伝票に中村MS自身がサインしていた。

だから、一月以降の受領書を全部、確認した。


三井所長が会議室へ入って来た。

百々津営業所の三井所長はよく知っている。


秋山は、梅本薬品へ入社してすぐ、百々津営業所、物流管理部、物流課へ配属になった。

当時から百々津営業所の所長は三井所長だった。


物流課とは、商品の出し入れ作業を担当する部署だ。通称「倉庫」と呼ばれている。

メーカーから商品が入荷すると、受け取り手続きを済ませて、倉庫の所定の棚へ入庫する。

出庫伝票が回って来ると商品を倉庫の棚から取り出して確認手続きの上、セールスの担当棚へ伝票を添えて出庫する。

入社三年目のある日、営業事務課へ配属になった。

経理担当の女性事務員が出産するのを期に退職する事になったからだ。

秋山には簿記の知識が全く無かった。

営業所ではそれでも、務まる程度の簡単な振替伝票の作成や補助簿の記帳と照合作業だった。

勿論、ちゃんと簿記の入門書を買って勉強くらいはした。


事務課へ配属になって一年後、経理システムが導入され、秋山の会計事務作業は、コンピューターに置き換わってしまった。


そして、本社へ異動になると同時に栗林市へ引っ越した。

「どうしたら良えんやろな」

おそらく中村の処分の事だろう。

架空売上は不正だ。会社の信用問題だ。

「何をですか」秋山はとぼけた。

「中村や」

三井所長は困っているようだ。

現在、中村は自宅で謹慎している。

「ああ。うぅん。分かりません」秋山は、困惑を装って答えた。

「冷たい奴ちゃのお」

三井所長は冗談めかして云った。

「けど、そんなん、本部に投げとったら良えやないですか」当たり前の事だが、三井所長に中村MSを処分する権限は無い。自身の評価を気にしている。

「それより、ちょっと変な事を見つけんですが」 秋山は確信していた。

「なんや。まだ何かあるんか」

三井所長は慌てた様子だ。

「はい。これは、それこそ事件かもしれません」秋山はこの案件の方が根深いと思っていた。

「何や。何や。まだ何かあるんか?」

三井所長の顔色が青ざめてしまった。

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