神域と呼ばれる森の守り人一族の最後の一人である私は一緒に暮らしていたおじいちゃんが逝ってしまったのを機にこんな誰も住んでいないクソ田舎を脱出して都会で生活するんだと夢見ていたけれど現実は上手く行かない
1-31 例えこれからデートだとしても上京したい
1-31 例えこれからデートだとしても上京したい
「すみませーん」
「あぁ、はいはい、リリアちゃんだねっ、ちょっと待ってておくれ、今うちのバカ息子も準備出来たからー」
アーシア=クーロッドと別れた私はエイド少年の家のドアの前に立って声をかけた。
中から聞こえてきたのはエイド少年のお母さんの声。
機織りの得意な明るい肝っ玉母さんだ。漁師の旦那さんの留守を預かる身の上であるだけに、朗らかで陽気で、器の大きな女性だ。ちょびっと憧れる。
バタバタと中の慌ただしさが外まで漏れててきているので、もう少しだけ時間が掛かるのかななんて思っていたら、ガチャリとドアが開いた。
「お姉ちゃん、おはようございますぅ」
「うん、おはよう、メーリちゃん」
ドアを開いたのはエイド少年の妹であるメーリだった。
エイド少年とは全然毛色の違うツヤツヤとした黒髪にエイド少年と似たそばかすのある女の子。寝起きのままでドアを開けに来てくれたらしく、麻色のワンピース姿でこっくりこっくりと今にも顔から地面に倒れそうな感じで舟をこぎながら眠そうに目元を擦っている。
大丈夫かなぁ……、倒れないかなぁ……、心配しながら見ていたら、「ふわぁぁ」と小さく欠伸をしてからこてんっと体が前へとつんのめった。
私はあわててメーリちゃんの身体を支える。
間一髪で顔面が地面に正面衝突するところだった。
危ない危ない……。
バタバタと派手な足音が家の中からやってきて、
「悪い、待たせたな」
エイド少年が玄関に現れた。
少年は何故かタキシードを身に纏っていた。
黒いタキシードに黒いショートネクタイにかなり白いシャツ、それから黒いスラックスと良く磨き上げられた革靴。ついでに手に花束と松明の頭が飛び出している荷物袋を持っている。
何故花束を……?
「何その格好……」
「リリアと出かけてくるって母さんに言ったら、これを着て行けってうるさくって……」
「でも、靴は昨日あたりに自分で磨いたんでしょう?」
「なっ、なんで……!?」
図星だったらしい。
「いや、そうかなーって思って適当に言ってみただけだったんだけれども、案外当たるモノだね」
「びっくりしたぜ、心を読まれたのかと思った」
「心を読まれる才能があるのはあなたよりは私だよ」
「なんだそれ……」
「あなたが知らないことだよ。で、その花束は、どうするの?」
「……、家に置いて行くよ。戻ってきたら改めて君に渡す」
「そっか、それならじゃあ後はよろしく」
眠そうに目を擦るメーリちゃんを玄関へと座らせて、エイドの家のドアを閉める。
今はまだ朝。時間はまだまだたっぷりと残っている。
いざ行かん、田舎のデートコースへ!!
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