1-29 考え事をしていても上京したい


 そんなこんなで、村の宿に泊めさせて貰ってから大体一週間が経過していた。


 この一週間、結構色々な発見が合って楽しかった。


 例えば、アーシア=クーロッドはあんな感じで男漁り大好きですみたいな感じではあるモノの、意外と甲斐甲斐しさがあるらしい上に、謎にお料理が趣味だそうで村の色んな人に手料理を配り歩いていたりだとか、エイド少年には小さい妹がいて、意外と年下の面倒見がいいとか、おじいちゃんのお客さんとしてログハウスにときどき遊びに来ていた白髪のおじさんがこの漁村の村長さんだったとか、色々だ。


 この村の人たちはとてもよくしてくれる。白髪の村長さんなんて、私が事情を話したら、自分の家に一緒に住むか? とおろおろしながら聞いてくれた。正直それでもいいかなと思わないでもなかった。だって、私が都会に行きたい理由の一番大きな部分で言えば、あんな辺鄙な場所に一人っきりでいるのは嫌だというものなのだ。つまり、それなりに人が住んでいる場所に住居を構えられるのであればほとんどどこでもいいということになる。


 そりゃ、私だって女の子なので少しくらいお姫様願望はある。でも、別にそれほど望んではいない。普通に誰かと寄り添って生きていければそれでいいのだ。おじいちゃんには悪いけれども、『完全なる火の造魔式』の継承に足る才能の持ち主との婚姻関係なんて、高望みをするつもりは毛頭ない。


 私はただ一緒にいる人が欲しいだけなのだ。


 究極的な話をするならば、どこかのコミュニティに属して人と交流を持てさえするならば、このままずっと独り身でいてもいいとさえ思っている。……、いや、やっぱりそれはちょっと寂しい気がする。


 ともかく何が言いたいかと言えば、もうこの漁村が安住の地でもいいかなと思っていた。


 ただ、アーシア=クーロッドが私のことを熱心に説得していたりもする。


 一度王宮魔式師を首になった身の上だけれども、それでも彼女は魔式師としての腕は確かで、だから王都に戻ればそれなりの良い職は見つかるし、その気になれば私の色々についても、サポート出来るだろうと、そんな風に言ってくれている。


 だから、もうこのままこの漁村を安住の地と定めるのか、それともアーシアと一緒に本物の都会へと打って出るのか、少しばかし悩んでいる、というのが本音だった。


 何より私の頭を悩ませているのは、アーシアについて行ったならば、多分だけれども、おじいちゃんの遺言を果たせるような気がするところだ。


 自分でこんなことを言うのもなんなのだけれども、私はこう見えて結構おじいちゃんっ子なのである。つまり何が言いたいのかと言えば、出来ることならばおじいちゃんの遺言の内容はなるべく叶えたい。でも、それを人生の第一目標にするつもりは特にない。


 自分がこの先どんな人を好きになるのかなんて全く分からないし、そういう、人を才能で選べぶようなことが出来るのかどうかという部分についても、正直全然分からない。


 その辺りの指標的なモノが私の中には一切ないので、判断基準がないのだ。


 だから、その旨をエイド少年に相談してみたのだけれども、とても妙ちきりんな表情をされた。最終的には「君が好きな奴と一緒になるのが一番いいんじゃないのかと思うけれども……」というありきたりな結論を出されてしまったのだが、その判断基準にするべき何かが私の中で定まっていないから困っているというのに……。



 ぐだぐだ、くどくどと思考を廻りに廻らせてみたモノの、結局何にも解決しない。


 姿見の前の私の姿もいつもと何にも変わりない。


 僅かにグレーがかった色素の薄い髪の毛は森での生活のためにショートカットにまとめているままだし、普段身に着けている厚手のグレーっぽい色のブラウスの上から革製の胸当てをつけているのも相変わらずだ。もちろん女の子にしてはとても薄い胸板も相変わらず……。アーシアの半分とは言わないから、四分の一くらいは欲しかった……、欲しかったのに……。カーキ色のフレアスカートの丈が膝上なのも相変わらずだし、厚手の黒タイツで足先からふとももまでしっかり覆っているのもやっぱり変わらない。スカートをぺらりと捲って自分のふとももを確かめて見た……。むっちり感が足りないと思う……。これじゃあ男の子のふとももみたいだ……。何ならおじいちゃんの太ももの方が僅かに太かったような気さえする。……、流石におじいちゃんよりは肉感的でありたい、というかあってほしいというか……。それから靴もやっぱりいつもと同じで靴底にスパイク構造が仕込まれているハイカットタイプのハンティングブーツ。


 いったいこの格好のどこに不満があるんだというんだ私、言ってみなさいな。


 話の流れからエイド少年と一緒に村の外にある岩礁洞窟を見物にいくことになったというのに、こんな機能性重視の服装のままでいいモノなのかと、悩んでいるであります軍曹閣下。


 ふむ、よろしい。しかし君は、その服と似たデザインの変え着以外はお洒落着なんて持っていないではないか。悩んだって、無い袖は振れないのだよ。


 ……、私は一体一人で何をやっているんだ……。


 でもだってしょうがないじゃないの。だって、二人きりってお出かけって、それってデートだよ、デート。おじいちゃんは昔モテモテだったなどと言っていたけれども、超辺境におじいちゃんと二人暮らしをしていた私がそんなことになるとは思わないじゃないのさ!!


 何がアレって、なんかよく分からないモンモンとした感じになっているのがとても何というか、アレだ。


 違うっ、別にデートがイヤとかそういう話ではなくって……。


 あぁぁっぁぁ!!!!


 なんだって私がこんなよく分からない感じで頭を抱えないといけないんだ……!!


 これも全部急に二人で出かけようなんて、誘ってきたエイド少年が悪い。絶対そうだ、そうに違いない!!


 でもきっと都会に住んでいる子は普通にこう言うことやってるんだろうなあ……。


 そんなこんなで頭ばっかり悩ませて朝支度は一向に進まなかった。

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