1-28 実録都会の真実(田舎でした)



 それから私たちは丸々四日ほどかけてフローゼの森からエイド少年の住んでいる漁村まで何事もなく移動した。


 家に帰らないのか? とエイド少年に聞かれたけれど、おじいちゃんも逝ってしまったので、私がわざわざあのログハウスに帰る理由は改めて考えてみても特にない。だから、帰らないよとだけ伝えて、漁村まで一緒に連れて行って貰った。


 アーシアはアーシアでその漁村に宿を取っているという話だったので、なおさら都合が良かった。……、いや、アーシアの止まっている宿に泊まるということ自体には少し不安を覚えないでもないけれども。


 その漁村は名もない漁村らしいが、結構いいところだと思った。


 久しぶりに成人の儀へと子供を送り出してから、既に一週間以上経っていたらしく、エイド少年の帰還の知らせは瞬く間に漁村中に広がった。


 エイド少年が私とアーシアという女子二人を連れてきたことにも驚かれたし、しっかりと神様の大樹の枝を拾ってこれたことにも驚かれた。


 なんでも、本当に神様の大樹の枝を手に入れて成人の儀を終えられる人は多くなかったらしい。


 そういうのは事前に共有しておいてくれよとエイド少年は愚痴っていたけれど、でも知らなかったおかげで中々面白い経験が出来たのではないかなと思った。まあこの辺は私が部外者で他人事感に溢れている故の感想であることは否めないけれども。


 そして無事に成人の儀を終えたエイド少年のために村の有志の人たちが集まってお祝いの席を設けてくれた。


 飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎで、大人たちは盛大に酒をかっくらっていた。多分、お祝いと称してみんなで酒を飲むのが本当の目的なのだ。


 エイド少年も沢山酒を飲まされていた。ニオイから察するに癖の強いウィスキーとか自家造酒の類がほとんどだったと思う。これで変なお酒の飲み方覚えたりすると、後が大変になりそうだから、全部終わったとで少し注意をしようかなと思った。


 沢山お酒を飲んでいたいのはエイド少年や村の大人たちばかりではない。そう、アーシア=クーロッドだ。彼女もまた村の男衆に混じってアホみたいにお酒をがぶ飲みしていた。漁村の誰よりもうわばみだった。


 飲み比べをしては男を潰して、飲み比べしては女も潰して、倒された大人の数は両手の数では足りなさそうだった。酔っ払ってふらつく足元の幾人かを物影に引きつれてガサゴソと何かをしていたけれども、それは見て見ぬふりをしておいた。


 私から言えると事としましては、あのときの自己紹介は本当だったんだなあ、とだけ……。


 大人たちは酔いつぶれて、子供たちは騒ぎ疲れて、ばったばったとその辺に雑魚寝し始めたことで祝いの席はなんとなく自然とお開きな感じになったのが、真夜中を少々過ぎた頃合い。


 大量に酒を飲まされたエイド少年が頭痛を抱えて呻いていたので、仕方なく飲み水を渡して少し夜風に当たろうかと、村にいくつかある桟橋に連れ出した。


 おじいちゃんも言っていた、変に酔っぱらった時は夜風にあたるのが一番いいって。


 うおぉぉぉとか、げぇぇぇぇぇぇ、とか変な唸り声をあげながらエイド少年が海の塩気を吸い込んだ桟橋に突っ伏しているのがちょっと可哀そうだったので、私も座り込んで膝を枕として貸してあげた。


 人間の頭というやつは存外重くて、すぐに足が痺れるんじゃないかと思ったけれども、私の太ももの筋肉と血管も中々いい形をしていたのか、案外そんなことにもならなかった。


「にしても、本当にちっちゃい村なんだね」


「うぅ、あぁぁぁ、最初からそう言ってただろ……、うちの村は都会じゃねーんだって」


「謙遜かと思ったんだもん……」


「そんな謙遜してなんになるんだよ……」


 呻き声を上げながら呆れるエイド少年と一緒に星空を見ていた。


 汐風が頬に心地よかった。

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