神域と呼ばれる森の守り人一族の最後の一人である私は一緒に暮らしていたおじいちゃんが逝ってしまったのを機にこんな誰も住んでいないクソ田舎を脱出して都会で生活するんだと夢見ていたけれど現実は上手く行かない
1-19 古代の遺物を譲って貰ったけど上京したい
1-19 古代の遺物を譲って貰ったけど上京したい
ひたすら階段を下り続けること早十分。
明らかに登った以上に下っている気がするが、なんとなく気にしたら負けな気がした。
『そろそろのはずじゃよ』
謎の声がそういった途端に、足元が下り階段ではなくなった。
もしかして音声認識機能でもついているのだろうか?
『構想としては、考えていたんだけれども、技術的な部分で断念したんじゃが、今はもう出来るようになったのかえ?』
おお、なんか本当に偉い人だったっぽい感じの発言だ。
そのまま床に足を付けて少し進むと、ドアのないぽっかりとした入口があった。
『その中じゃな』
促されるままに中へと入ると、何もせずとも独りでに明りが付いた。
「自動照明!? えっ、嘘ッ!? 王都でも最近実用化の目途が立ったばかりだっていうのに!!」
「へー、すげーんだ、ここ」
アーシアが素っとん狂な声を上げた。
『なんじゃ、現代人もまだまだじゃのお』
謎の声の主は結構得意げだった。
でも最先端の魔式師が集っていると言われているらしい王国(そうおじいちゃんに聞いた)でも最近やっと実用化の目途が立ったようなものをずっと前から仕込んでいたなんて確かにすごい。
『そうじゃろう、そうじゃろう。もっと褒めてもいいのだぞ?』
褒めたところで何にも出てこないし、うるさいだけだからこれ以上褒めるのはやめておこうと思う。
『なんじゃつれないのぉ』
部屋に溢れる明りによって照らし出されたのは、宝玉といくつかの碑石だった。
宝玉がなんとなく値打ちものっぽいのは分かる。
だって、やっぱり宝玉だもの。わざわざこんなところに隠しておいてあるのだし、高くないものなわけがない。
ただ、碑石の方はよく分からなかった。
よくよく観察してみると、碑石には蛇がのたくったような文字が刻み込まれていて、その中心に赤や青、緑や紫、黄色、黒などなどに輝く小さな水晶球がはめ込まれている。これも宝玉の一種なのだろうか? だとすれば、この碑石もやっぱりお値打ちものなのかもしれない。
「えっ、これもしかして……? 造魔式の秘術書……?」
『おお、お主には分からんかったがあっちの
むっ、なんだかその言い方はそこはかとなくバカにされているような気がする。
「秘術書ってなんだ?」
私と同じく分からない側のエイド少年が何の気なしな調子でアーシアへと問いかけた。
ありがとうエイド少年。
「秘術書っていうのは、簡単に言えば、作った造魔式を他人の頭の中に流し込むためのモノかな」
『インストールじゃ』
説明を聞いても、今一よく分からなかった。
「そうすると、何がどうなるの?」
「適正や才能があれば、難しい手順を踏まなくてもその造魔式を扱えるようになる……。えぇとね、本を一冊覚えようと思ったら何度も何度も何度も読んで、声に出して、手で書いて、ってことを繰り返して少しずつ覚えていくわけでしょう。で、そういう地味な作業を延々繰り返したところで本当に全文完全に暗記してしまえるかというと、まあどこかで記憶違いは発生してしまうじゃない。だけれども、この秘術書はそういう手順をすっ飛ばして直接頭の中に本の中身を一語一句正しく書き込んでしまうの。まあ適正があるかどうかにも左右されるんだけれども」
「つまり、この秘術書と言われるものに選ばれると、問答無用でその造魔式が使えるようになるってこと?」
「そう大体そんな感じ」
ということは私の家の地下にあると言われている『完全なる火の造魔式』とやらの碑石もこのような形をしていると考えられる。まあ、私には才能がないので、そこはもういいのだけれども……。
『ちょっと中央の奴に触ってくれるかの?』
あっ、はい。
促されるままに私は部屋の中央にある黄色い碑石へと手のひらを乗せた。
「ちょっ、リリアちゃんなんの造魔式が入っているか分からないのに不用意に障っちゃダメよっ!?」
「へっ?」
危険な可能性があるなんて露ほども考えていなかった。
そう、私はすっかりこの謎の声がいい人であると信じ切っていたのだ。
カッ――――!!
手のひらが触れた瞬間に碑石が強烈な閃光を放った。
どうして私は警戒しなかったんだろう。
一体これからどうなってしまうんだろう。
そんな後悔が、グルグルと渦巻く。
しかし、だけれども、予想に反して私の身体には何にも起きなかった。
すぅっと光が消えていく。
黄色かったはずの碑石は褪色して煤けた鈍色になっていた。
そして、その真横にふよふよと男の人が浮いていた。
半透明の豪奢な冠を戴き、ファーのついた真っ赤なマントを羽織り、純白で絢爛な上衣と赤と緑のストライプという主張の激しい豪華な下衣に、いくつもの宝石が散りばめられた光沢のある木靴を履いた壮年の男性が何を思ったのか空中でヘッドスピンを決めている。
『おお、もしかして私の姿が見えるようになったかのぉ?』
私は謎の声の主は言葉遣いとしゃがれ具合からもう少しおじいちゃんなのかなと思っていた。
だというのに蓋を開けてみれば、いないけれども私のお父さんくらいの年代の見た目の人だった。
……、いやそもそもこの人は多分とてもとても古い時代の人だ。危ない危ない、見た目に騙されるところだった。
あれとすると、……、もしやフロリアス一世その人なのでは……?
『そうじゃのお。私はこの姿の時に死んだわけでもないからのぉ。まあ残留思念みたいなモノと思ってもらえれば結構じゃな』
それで、私は今なんのための碑石に触らせられたの?
『今のはこの土地の残留思念を活性化させるための碑石じゃな。造魔式を頭の中にインストールするような危険な代物ではないから安心せい』
残留思念の活性化……? それって
『いかにも。ただ、私たちもいい加減この土地に縛り付けられているのは辛いんじゃよ。特に死してなおこの土地に縛られたままの民たちが気の毒でならん』
でもなんだって、それで活性化なんて……?
『つまりじゃな、お主たちに私たちの怨念を鎮めてほしいんじゃよ』
「えっ……、怨念を鎮める……?」
エイド少年とアーシアがむぅっと眉間にしわを寄せたけれど、今はそれどころじゃないので、王様っぽい壮年の男の人の答えを待つ。
『ここの碑石には残留思念の活性化の碑石とその活性化させた残留思念を寄せる碑石がある。それを使って我等の怨霊を一か所に集めて鎮めて欲しいんじゃ』
なるほど。やっぱりこの人王様なのでは……?
しかしだけれども、鎮めると言ったって一体どうしろと?
『ここには私がこんな時のために作り上げた秘術中の秘術が一つあるんじゃ。それを、あっちの
……、それって大丈夫なの?
私今まであなたのこと何にも疑ってなかったけれども、危なかったりしないわけ?
『それを照明する手段を私は持っていないんじゃが……、一つだけ言えることがあるとするならば、私の作った秘術は
……、なるほど私たちは確かにこのお城の中に入った時にその話をしていた。
それで自分の碑石の力を明かせば協力してくれるだろうと踏んで、私たちに声をかけてきたという訳なのか。
『まあそうなるの。ただ、私の声がお主にしか届かなかったのは、少々誤算じゃったがな』
……、そういえばなんでだろうね?
『それは私にも分からなんだ。まっ、都会的な縁ということにしておくのが良かろ』
なぁにそれぇ。
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