1-20 お城の過去の断片を見たけどそれでも上京したい


 謎の声のやりたいことを全て聞いた私はそれをエイド少年とアーシアに共有した。


 最初は渋い顔をしていたアーシア=クーロッドだったが、ここに安置されている碑石の一つが土造鎮魂人形式ディスペルゴーレムという名の古のゴーレムを製造召喚するためのモノだと伝えたらば、あっさりと手のひらを返してやる気を出していた。


 何というか、アーシアも意外と単純というか大概素直というか何というか……。


「なあ、俺にもなんかねえかなー? 一個くらい使えない?」


 アーシアがやる気を出している横で、エイド少年が小さくぼやいた。


 私が王様っぽい人のことをちらりと見ると、彼は首を横に振った。


『残念じゃが、そのおのこには才能がないのぉ。ここにある碑石との相性が良くないのじゃ。せめて海神わだつみ系の碑石でもあれば、良かったのじゃが……』


 何とも残酷なことを私から伝えないといけないらしい。


 ……、いや、ちょっと違うのか……?


「あなたの適正に合うモノはここにはないって。海神わだつみ系……。多分、水とかの造魔式ならあなたにも適正があるみたいな言いぶりをしている」


 つまり、こういうこと、だよね?


『そうじゃの。そういうことじゃ』


 うんうんと、王様みたいな人は関心したように首を縦に振る。


 そんな反応するのはよせやい照れるぜ。


「本当か!? なんだよっ、俺にも才能あるんだなぁ」


『ちょっとだけじゃがの』


 ちょっと肩を落とし気味だったエイド少年の表情も少しだけ明るくなった。


「お姉さんそろそろ準備出来たわよ?」


 碑石に触れないようにしげしげと観察を続けていたアーシアもどうやら気が済んだらしく、そんな風に声を掛けてきた。


『一つだけ注意点があるんじゃが……、』


 半透明スケスケの王様っぽい人がそんな忠告の声をあげたその時には既にアーシアの手が碑石に触れてしまっていた。


 クワッ!! と閃光が放たれる。


「なっ、なるほど……!! ゴーレムの真髄とは何かが分かった……!!」


 喜色満面にアーシアが声を弾ませる。


『お主も、残留思念を寄せる碑石を使ってくれろ』


 何か忠告があるんじゃ……?


『やっちまったモンは仕方がないのぉ。お主が残留思念を寄せる碑石を起動したらそっちの話もするから今はさっさとそっちに触れて欲しいんじゃよ』


 ……、分かった。


 何を恐れているのかは、さっぱり分からないけれど、裸の王様よりも圧倒的にスケスケな王様にせっつかれるままに、碑石に手を伸ばす。


 私が白い碑石に手を伸ばすと、またしてもカッ!! と閃光が迸った。


 だけれど、それよりも何よりも、何か得体のしれない奔流のようなものが、私の中へと流れ込んできた。


 これはなんだろう?


 見覚えのない景色、見覚えのない人たち、聞き覚えのない声。肌に触るざらざらとした感覚と、指の先が伸び縮みするような感覚と……。


<我等は疫病で滅ぶと、そういうのか?>


<えぇ、それはきっとどうやっても避けられない運命かと>


<受け入れろと申すのか?>


<我等は我等を救う力を持ちませぬ故……>


<何か出来ることはないのか? なんでもいい、民を救う方法は……>


<疫病は回避できませぬが、その後の苦しみからならば民を救う手立てはあります>


<申してみよ>


<我等亡き後の世に、我等の無念を祓うための力を置くのです。今はまだ出来て上がってはおりませぬが、あなた様が尽力なされば、僅かでも可能性があるかと……>


<死後の安らぎを得るために今生を生きる努力を捨てよと……?>


<無念な怨霊になり数千年の間、民が苦しみ続けることになりましょう。我等は無念に打ち捨てられて救われる手立てもないのです……>


<ダメか……>


<えぇ>



 言葉と胸中が私の中に流れ込んでくる。

 ダイレクトな感情アタックだった。


 実感をすっ飛ばしていきなり感情だけが私の中に叩きつけられる。


 このお城は疫病の末に皆が苦しんで逝ってしまったのか。

 なんで逃げ出すという選択肢がなかったのかは、分からない。


 ただ、それでもやっぱり滅びは不本意だった。

 不本意だけれど、回避しようもなかった。


 分からない。

 分からないし、苦しかった。


 もう遅い。

 当時のことの断片を知ったとしても私は、その時代にはいない。だから何にも出来ない。


 虚しくて、悲しくて、訳が分からなかった。

 なんだってこんなことを私が知らなければならないのか……。

 なんだってこんなことを心に直接植え付けられなければいけないのか……。


 なんだってこんな……、こんな……。



 泣きたかった。

 吐きたかった。


 でも、今はまだやることがあった。

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