神域と呼ばれる森の守り人一族の最後の一人である私は一緒に暮らしていたおじいちゃんが逝ってしまったのを機にこんな誰も住んでいないクソ田舎を脱出して都会で生活するんだと夢見ていたけれど現実は上手く行かない
1-9 神樹の根元まで来たけどやっぱり上京したい
1-9 神樹の根元まで来たけどやっぱり上京したい
それからまた歩いて歩いて歩き通して、結構森の奥の方までやってきた。
「なんていうか、少し雰囲気変わった感じがあるんだが……?」
「おっ、気が付いた。もう本当の神域に足を踏み入れてるからね。そりゃ周りの空気感も変わるよ」
フローゼの森の中央にある神様の樹を中心としたある一定範囲内では色濃いエーテルの力が場を支配している。
特に生態系に強い影響を及ぼすことはないが、それでも独特の圧が存在している。
その圧を恐れるからかどうかは分からないが、この範囲内にはほとんど脊椎動物は寄ってこない。特に大型の生き物はその傾向が顕著に現れる。
つまり、この範囲内ではクマもオオカミもシカも出ない。
ただし――、
「なんだかよく分からない粘性生物が出るから気を付けてね?」
普段とは違う生き物は出てくる。
「それはモンスターとは違うのか?」
「さぁ? 私はモンスターについて詳しくないから分からないけど……、おじいちゃんが言うには、神様の使いだから刺激しちゃならんって」
「って言われてもどんな見た目なのかも分からないんだけど……」
「それは、多分見たらすぐ分かると思う。変だから」
「変なのかよ……。にしても結構暗くなってきたな……、今日はこの辺で夜営か?」
「安全を考慮するなら神様の樹の根本まで行きたいな」
「そっか……」
神域の雰囲気に飲まれているのか、エイド少年は口数が少なかった。
いや、元々こんなものかもしれない。どちらかというと私の方が口数が減ったのかもしれ知れない。
別に神域はそれほど危険な場所というわけではない。
おじいちゃん曰く神の使いである粘性生物も、怒らせさえしなければそれほど怖がる必要もない程度には無害だ。
そして怒らせるラインも、間違って上から踏んづけてしまうくらいならばセーフなので、それほど気にする必要もない。
一つ気を付けるべきなのは、神域の中で造魔式を使うことなかれということ。
この場所で造魔式を使うと、この場の力に影響された昆虫や小動物が集まってきて大変なことになってしまう。
おじいちゃん曰くそれはある種の防衛反応であるという話なのだが、詳しいことは今一よく分かっていない。もしかしたらおじいちゃんの書いた何かのメモ書きみたいなものを引っ張り出したら分かるのかもしれないけれども。
「にしても、なんかこう……、落ち着かないな」
「そういう場所だからね」
いつもここに来ると普通に歩くだけなのに、冗談の一つも湧いてこなくなってしまう。
もしかしたらここに祀られている神様は笑いの神様ではないのかもしれない。
何なら笑い事はあまり好きではないタイプの神様のような気がする。戦神は戦場でガハハと笑っているイメージがあるし、愛の神様ならばウフフと笑っているイメージがある、太陽神だってきっとほほ笑んでいる、何なら死神だってほくそ笑んでいるだろう、後は知恵の神だってユーモアの一つや二つ考えるだろう。
そうなると……、笑いが嫌いそうな神様って、どんな神様だ?
うーん、そうだなぁ……、もしかして正しさの神様かな……。
「そろそろつくよ」
「おぉ、あれか……!!」
鬱蒼とした木陰の奥から、神様の樹の幹がようやくと見えてきた。
そして、木々の中から一際開けた場所へと出る。
「うぉぉ……、マジででけぇ……。森の外からでも分かるほど異様なデカさだったけど、こうして間近で見ると迫力がすげぇ……」
十年生きた樹木の軽く、二〇から三〇倍はあろうかという太い幹は真下からてっぺんが分からないほど高く高くそびえたつ。
みっしりと地面に根ざした根っこもこれまた太く、広範囲に広がっている。
神様の樹の周りが開けているのは、神様の樹の根っこがみっちりと広がっていて、そこに樹木が生育するスペースがないからなのだ。
「これ、樹齢何年くらいなんだ……? スゲーなあ」
「おじいちゃんが小さいときには既にこの大きさだったって話だし、うちのご先祖様の手記でもやっぱりすごく大きいって記述が残ってたはずだから……、もう想像を絶するぐらい長いことここに立ってるのだけは間違いないと思うけど」
しかし、問題がある。
「そうなのかー……。歴史のロマンを感じるぜ……」
エイド少年が気が付いているのかいないのかは定かではないが、とても明確に一つ問題がある。
「古に想いを馳せることについてとやかく言うつもりもないんだけどさ……、あなたはこの神様の樹から枝を一本拝借しないといけないんでしょう?」
「あぁ、そうだ……、忘れてた」
声をかけるとエイド少年が改めて幹を見て上を見上げる。
高い高い樹木だった。
一本目の枝が生えている部分までの距離、目測でおよそ六メートル弱。
つまり、少なくとも垂直に六メートル程度は上って行かないといけない。
しかもその上、六メートルは飛び降りれない。
「なあ、コレどうしたら良いと思う?」
「今日は一旦ここで夜営して、明日改めて考えるのが良いと思う」
「……、そうするか」
私たちは二人して思考することを放棄して不貞寝することに決め込んだ。
田舎だろうと都会だろうと、デカいモノには心を殺されるのだ。
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