神域と呼ばれる森の守り人一族の最後の一人である私は一緒に暮らしていたおじいちゃんが逝ってしまったのを機にこんな誰も住んでいないクソ田舎を脱出して都会で生活するんだと夢見ていたけれど現実は上手く行かない
1-8 キャンプ二日目だけれどやっぱり上京したい
1-8 キャンプ二日目だけれどやっぱり上京したい
そんなこんなで二日目。
今日も今日とて私たちは森の中を進んでいく。
途中で非常に無防備なシカを見つけてしまったので、弓を使って狩りでもしようかと思ったけれど、次の夜営場所も決まらないうちから大物取りなんかしたら移動が大変だなぁと思い直して止めました。
適当に歩きつつ、オレンジを収穫しながら、ガサゴソと森の中を歩いていく。
昨日と比べると、エイド少年の足取りが鈍かった。
無理もない、森での夜営に慣れてない人間にとっては二日目は辛い。
「なあ聞いてもいいか?」
「ダメって言ったら聞かないの?」
「まあダメって言われたら引き下がるけど……」
「素直だね」
「あぁ? 天邪鬼よりはいいだろうが」
「天邪鬼ぅ、おたまじゃくしぃ、未熟な心は思春期の裏返しぃ」
「……、」
「まあ素直なのっていいことだと思うけどね、私も。で何を聞きたいの? 素直なあなたには私から真心をプレゼントさせて頂きますのことよ」
「……、ありがと、で良いのか?」
「逆にありがとう以外の何があるの?」
「あー、うーん……。いやなんも思いつかないけれども……」
「じゃあやっぱりありがとうじゃない」
「それもそうか。で、君はなんで守り人なんかやってるの?」
「なんでって、それは私がこの守り人の一族の生まれだからだよ。あなたがお父さんと一緒に漁に出るのと一緒」
「でも、君はあんまりこの場所好きじゃないんでしょ?」
「えっ? いや、別に好きだよ?」
私の答えにエイド少年は非常に不思議そうな表情を浮かべていた。
「……? あんなに都会に行きたがっているのに?」
「別にここが好きかどうかと都会に行きたいかどうかってあんまり関係なくない?」
「そういうもんかぁ? 俺は俺の住んでる村好きだから、別にもっと大きな街に行きたいとか思わないぞ?」
「だって、私の住んでいるところって、誰もいないんだもん。おじいちゃんも逝っちゃって、もう正真正銘私一人っきりなの。だから、人がいる場所に行きたい! 森が嫌いとか、守り人を止めたいとか、そういう話じゃなくて、もう単純に人がいるところに行きたい」
ハッキリ言ってしまうと、私は人恋しかった。
人のいる街に行きたいのだ。
色んな人がいて、色んな人が生きていて、色んな考え方のある場所に、行きたいのだ。
好きとか嫌いとかじゃなくて、一人は寂しいのだ。
「ほーん……」
「聞いといて反応薄くない?」
「いや、だって俺には分からない考え方だなって思ってさあ」
「男の子にはやっぱり複雑な乙女心は分からないんですね。ヤレヤレ全くコレだから、純情ボーイは……」
「うるせー! どうせ俺はガキだよ!!」
「……、子ども扱いされることに嫌な思い出でもあるの?」
「うっ……、君本当に訳が分からないんだけど、なんでそんな情緒不安定な癖に、変なところで鋭いのさ」
「私もね、火の造魔式の才能がとんとなくって、おじいちゃんを失望させちゃったんだけれど、そういう何というか、まあしょうがないじゃない、そういうのって。でも、しょうがないって分かってても、でも気にしちゃうことって多分誰にでもあることなんだと思うんだけれども、でもみんなそれぞれ真剣で深刻で、でもそれって実は案外大したこともなくってさ……、分かんないんだけど、そう言うことよ」
「結局君もなんも分かんないんじゃん」
「私は、なんも分かんないってことが分かったの! だから、あなたよりも頭がいい!!」
謎の反論をしてしまった。
だから何だとしか言いようのない、無意味で無価値な対抗心だった。
「まあそれは別にそうでいいけどさ」
そして、大人の対応をされてしまった。
負けだった。確実に人としての器で負けてしまった。
完全敗北だ、完全敗北スタディケーション(注:スタディとバケーションを合わせた造語特に意味はない)だった。
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