1-10 枝を落とす冴えた方法を考えながらも上京したい


 求めよさすれば与えられん。


 ……、いやどれだけ求めても無理だよあんなに高いのは。


「さてと、一晩明けたけれども、何かいい案浮かんだ?」


「この辺にさ、枯れ枝落ちてないかな」


 なるほど、ちょっと賢いと思った。


 この辺りに枝の一本だって落ちていやしないということを除けば。


「昨日設営のために色々見て回ったと思うけど、この辺りだけは枯れ枝の一本だって見つけられなかったんだよね」


「だよなあ……」


 枯れ枝が落ちないのか、そもそも枝が枯れないのか、あるいは、高所からの落下で風に飛ばされるからこの辺りには落ちていないのか。


 カラクリは分からないけれど、とにかくこの周りには神様の樹から落ちたと思わしき枯れ枝は一つとして存在していない。


 枯れ枝だけじゃない。

 そもそも落ち葉さえほとんどない。


 流石神様の樹と言えば良いのか、それとも恐れ多いほどの神様の樹と言えば良いのか……。


「じゃあやっぱり登るしかないのか……」


登攀とうはんして、枝をもぎ取る窃盗犯せっとうはん。ふふっ、うふふ」


 珍しかった。この神域の中でダジャレが出てくるのは本当に珍しかった。


「調子出てきたみたいじゃん」


「でも、どうするの? こんな高い樹登るの大変だよ。とっかかりもないし、あったとしても樹の皮は結構剥がれやすいし」


「造魔式で階段を作るとか?」


「使っちゃダメなんだろ?」


「そうなんだけど……。じゃあ、私の手斧投げる?」


「……、よしんば枝にあたったとしても上手く落ちる気がしねえんだけど」


「だよねえ」


 二人そろってうんうんと頭を悩ませる。

 いい方法は全然全く想い浮かばなかった。


「そう言えば、ロープ持ってるよな? それ長さどれくらいあんの?」


「これ、長さはそこそこだけど、かぎも何にもついてないし、枝落とすのは難しいと思うよ」


 私が持っているのは本当に何の変哲もないただのロープだ。


 唯一他のロープよりも優れている点があるとすれば、それは頑丈で切れづらいということくらい。


 一応、エイド少年にロープを渡してみる。

 したらば彼は手を動かして何やら作業をし始めた。


「こういうのはどうよ?」


 私の手斧と私のロープが合体して、鎖付き(鎖ではない)投げ手斧に進化した。

 手斧の取っ手の部分にロープの先を括りつけただけのとてもシンプルな構造。


 シンプル故に、誰にでも簡単に手作りできそうな一品だ。

 もしかすると中々汎用性の高いカスタムかもしれない。


「ダメ」


 だけれど、実用に耐えうる仕様ではなかった。


「なんで?」


「だって、これじゃあ多分私の手斧すっぽ抜けてどっかにいっちゃうし……」


 私はエイド少年からお手製鎖付き(鎖ではない)投げ手斧を強奪して、一度結び目を解く。


 それから、斧の金属部分と柄の部分とをクロスさせるように輪っかを作って、少し複雑に縛りなおした。


「せめてこうだね」


 名付けてお手製鎖付き(鎖ではない)投げ手斧バージョンツー。


「よっしゃっこれなら……!!」


 いそいそとエイド少年がロープの反対側を自分の腰へと軽く巻き付けて、それから思い切り手斧をぶん投げる。


 斧が空を切るいい音が鳴った。


 音は良かった。

 そう、音はとてもとても良かった。


 だけれども――、

「上手く当たらねえ……」

 放り投げられた手斧は枝には刺さらずにガンッ!! と音を立てて地面に落っこちてしまった。


「まあでも、とりあえず届くことは間違いないし、これなら刺さっちゃったとしても、ロープ引っ張れば斧の回収も出来るしで、万々歳でしょ。ほら、頑張れ都会の男の子っ!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る