1-2 突然男の子が振ってきたから上京したい
それは私が日課の瞑想をしているときの出来事だ。
男の子が降ってきた。
「うわぁぁぁっぁぁ」
とんでもなく情けない声を上げながら、すってんころりんと山の上から転げ落ちてきた。
日課の瞑想をしているときは感覚が繊細になるモノですから、私も私で、結構派手に叫んでしまった。
「急に叫ぶなァァァ!!」
「そんなことを言われても……、いや謝るけども、騒がしくしてしまってごめんだけれども……!!」
いけないいけない……。おじいちゃんにもお前は感情的になり過ぎるのがいかんと何度も注意をされていたのに、またやってしまった……。
「こ、コホンッ……。失礼しました、そういうつもりではなかったんです……。私の方こそ、急に怒鳴ってしまってすみません」
大体、山を転げ落ちてくる人が静かに転げ落ちて来たと考えれば、それはきっとその方が怖い。
想像してみればわかる。
山の上から人が無言で転げ落ちてきたら、普通に死人が降ってきたと思ってしまう。
山から死人が降ってきたら、普通に怖い。どれくらい怖いかというと、夜の山で
「で、あなた誰ですか? なんでこんな辺鄙な山の中に……?」
改めて山から降ってきた男の子のことをしげしげと眺める。
年は多分私と同じくらい。ふわふわの金髪に薄らとそばかすの乗った顔が特徴的な少年。身に着けている衣服はぼろではないが、かといって特別な仕立ての良さみたいなものはあまり感じられない黒いシャツとオーバーオールに泥だらけのスニーカー。
顔は悪くないが裕福ではなさそう。
……、とてもじゃないけれど、王子様には見えなかった。
「俺はエイド。えぇと……、村の成人の儀式のためにこの森の奥にある神の大樹から小枝を一本拝借するために参上した」
自分でもよく分かっていないのか、単純に口にし慣れていないのか、浮ついた言葉だった。
「成人の儀式……? 私一四年生きてきてそんなもの初めて聞いたけど……?」
「その……、うちの村は中々の限界集落でして……、俺より年下の子供は何とか増えてきたんだけれど、俺より上の世代は確か十年くらいは子供がいなかったとかなんとかで……」
つまり丁度私が生まれた生まれたころから、あっちの村でも子供が生まれ出したということなのだろうか? つまりこれからは毎年こんな子が山に分け入るというわけか……。いや、私は都会に行くしもう関係ないのだけれども。
「嘘とかではなく……?」
「こんな嘘を吐いてなんになるんだ……」
「ほら、実はどこぞの王子様が変装して何らかの儀式を済ませるみたいなモノってよくある話じゃない」
「俺がお忍びの王子様に見えるのか?」
「いえ見えないわね。全然全く徹頭徹尾完全無欠に見えないわ。だけれどそれでも百万分の一か、一千万分の一くらいの確率でそう言うこともあるかもしれないから、馬の耳に念仏を唱えるくらいの信頼度で確認してみただけ」
「そこまで言われると事実だったとしてもそれはそれで傷つくんだけど……」
「あら、ごめんなさい。私ったらお口がおすべすべなモノで……」
「何、おすべすべって……」
「言っちゃいけないようなことも平気で口にしてしまう悪いお口のことね」
「そんなに冷静に解説しないでほしい……」
「面倒な男の子だ事っ!! モテないよ!!」
「なんでそこで俺がキレられるの!? 理不尽じゃない!?」
「エイド君、あなたは一つ新しい学びを得たのよ。女の子は理不尽なものなの……、あなたのお母さんだって、理不尽でしょ?」
「……、今一瞬納得しかけた自分が悔しい……!!」
「で、あなたがなんでこの山に来たのかは分かったけれど、そこから何がどうなると転げ落ちてくることになるわけ?」
「急に真面目な流れに戻さないでよッ!! 緩急おかしいって絶対!」
「緩急は付いていれば付いているほどいいでしょ、何言ってるの」
「情緒が、情緒が分からない……。なんで転がり落ちてきたかと言うと……、よく分からない変な熊みたいなものに驚いて足を滑らせたら斜面の傾斜が思ったよりもきつくて、止まるに止まれず、こんなところまで放り出された次第なんですが……」
そんなベタなことあるぅ? と口を滑らせそうになって、慌ててごっくんと飲み込んだ。
王子様じゃない人を王子様じゃないというのはセーフだけど、情けない人に情けない人だなというのはアウトラインを超えている気がした。
自分の中の基準が自分自身でもよく分からなかった。
でも何故かそんな気がした。
「それって、もしかして結構落ちたんじゃないの? 怪我とかしてない?」
もう一度しげしげと眺めてみるも、あちこちに泥や小枝や木の葉がくっついているくらいで目立った外傷はなさそうに思える。
しかし、手足の露出した部分が何ともなかったとしても、胴体を強か打ち付けていたり、服の下に擦過傷が出来たりはする。特に服の仕立ての良さはそういう部分にも影響が出たりでなかったりする。
だから、ぺらりと彼の上着を捲り上げた。
「ちょっ……!? なっ……?! なんで急に……!?!?」
「えぇ? なんでそんなに慌てるの? 服の下、直で見ないと傷があるかどうか確認できないでしょうが。ちょっと大人しくしてなさいな」
筋肉はそれなりに付いていた。腹筋もきちんと割れている。でも多分私の方が筋肉ついてるな。
わさわさわさと腹部を触る。
ビクッとエイド少年の筋肉が震えた。
ふにふにと横腹にも触れる。
「ちょっ……、おまっ……」
「シャラップッ!! 外から見て一見何ともなかったとしても中がどうなってるかは分からないんだからっ!! ちょっと大人しくしてなさいっ!!」
断じて、断じて自分と同じ年ごろの子が物珍しくて好奇心の赴くままにまさぐっているわけではないのだ。
ふ、ふふっ、ふへへ……。
「だからつって、そんな手つきをする必要はねぇだろうッ!?」
「都会の男の子の体を触れる機会なんて滅多にないからっ、だから許してっ!!」
「うちの村は限界集落だァ――――!!」
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