1-3 名乗るのを忘れていたけれど上京したい
さりとて私は正座をしていた。
「なあ少しは落ち着いたか?」
「えぇ、その節はご迷惑をおかけしました」
五分前の興奮した私よ、五分後の私は反省しているぞ、お前も反省せよ。
「で、結果は?」
「まあどこ触っても痛がってはいなかったので概ね良好かと思われます、
ご立腹の王子さまは、しかし律義にも私の触診の結果を所望していた。
……、やだっ、素直過ぎてちょっと心配になる。
「それから、君の名前を教えて貰えない?」
「アレ? 名乗ってなかったんだったっけ?」
私はてっきり自己紹介をした気になっていたけれど、確かに思い返してみると、結局私自身は名乗っていなかったよーな……?
「私はリリア。リリア=フローゼ。このフローゼの森の守り人の末裔よ。森の守り人……、ふふ、ふふふ……」
「急に、不気味に笑うなぁ……」
「ウフフ、アハッ! アハハハッハハハ!! アーハハハハッ!!」
「いや笑うなら盛大に笑えという話ではなくてね……?」
「それであなたの目的は森の奥にある神様の樹から枝を一本拝借という名の強奪することなんだよね?」
「そうだけど、急に笑い止めてスンッってして何事もなかったかのように話進めるの止めて?」
「手伝ってあげようか?」
「ねぇ、無視しないでっ?! 俺の発言を知らんぷりして勝手に話進めようとしないでぇ?!」
「まあ、断るっていうなら、無理にとは言わないけど、私だって暇ではないし……」
「付いていけないっ……、君の話の展開速度に付いていけないの……!! もう少し情緒安定させてぇ?!」
「都会っ子は意外と遅いんだねぇ」
「君の話が急転直下過ぎるだけだよ?! 順序とか機序とか、もう少し考えて?」
「純情に、順序を考える恋心? 来いッ心!!」
「訳が分からないっ?!」
「えぇー? じゃあどうしたらいいのさ?」
「だからこう、もう少し順序だてて話をだね?」
「うーん……、という話はまあ置いておいて、もしあなたが森の奥に一人で分け入るのが大変だというのならば、私が力を貸してあげましょうか?」
しばらく腕を組んで考えてから、一度前置きを置いて、もう一回話を切り出してみた。
もうさっきと何が違うのか全然分からないけど、話が進まないのだから仕方ない。
都会のノリって私とおじいちゃんの話のテンポと随分違うんだな、勉強になる。
「ああ、なるほど。君はこの森の守り人の一族の子なんだっけ……、でも俺のは一応一人で行って戻って来いっていう儀式だから……」
……、もしかするとコレは茶番か?
「森の守り人、リリア=フローゼの許可なく森に立ち入ることは許しませんが?」
実はそんな規則はないし、そんな権限も一切持っていなかった。
当然だ、そもそもこの森は一応神域として指定されている森なので、誰の持ち物なのかで言うと、神様の持ち物ということになっているはずなので。
まあおじいちゃんの言っていたことが正しければの話だけれど。
「うっ、……、分かった、そこまで言うなら、道案内をお願いします」
「よいよい、苦しゅうないぞ」
機序や手順を踏むってバカらしいなぁ。
しかし、都会においてはきっとこういうことが大事になるのだろう。覚えておこう。
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