わらしべハウス⑪




もちろん闇の封印が解かれるなんてことはあるはずがない。 ただ隠そうとしていた中二病が、これから共同生活を送ろうという相手に見られたのは致命的だった。

それでもまだ誤魔化しようがある、そう考えると次第に落ち着きを取り戻せた。


「オーナーさん、どうしたんですか・・・? これは一体・・・」

「い、いやぁ、そんなことが書かれているだなんて気付きませんでした。 買った時から書かれていたんでしょう、おそらく」

「え、でも手書きっぽいですし・・・。 それに書くとしたらもっと違う色で見やすいように書くのでは・・・?」

「エルカリで買ったものですからね!」

「エルカリ・・・」


エルカリは個人で使えるネットの物品売買サイトである。 実際買ったのはエルカリからではなかったが、そう言えば納得するだろうと考えたのだ。


「いやぁ、嫌になっちゃいますねぇ。 そんな変な細工するもんですから。 あー、騙された騙された」

「はぁ・・・」


壮弥は納得していないようだったが、二人はリビングへと戻った。 そして壮弥は持ってきた時計を瑠璃子に手渡した。


「まぁ! その時計が次のプレゼント!?」

「はい・・・」

「これ、とてもほしかったブランドのヤツですよぉ!」

「喜んでくれて何よりです・・・」


壮弥が持ってきた時計は高価そうな代物だった。


「ブランドもの? そんな高価なものを渡してよかったんですか?」

「アウトレットで買ったものだから、値段はそんなにでもないんですよ・・・」

「そうなんですか」

「オーナーさんの手帳こそかなりの高級品だったと思うんですけど、よかったんですか・・・?」

「え? あぁ、まぁ、はい」


―――全然よくなくて、もう封印は解かれてしまったっての。

―――暗黒と氷炎の魔法使いである俺に、時戻しの法は備わっていないんだよ。


そこで紺之介が声を上げた。


「あ、その時計見たことがあるな」

「本当ですか? 紺之介さん見る目があるじゃない! こんな高級品を知っているだなんて!」

「でもそれ、渋谷とかを歩いている子が好きなブランドじゃね?」

「・・・え?」

「清楚な瑠璃子ちゃんにはあまり似合わないような気がするけど」

「そ、それは偏見でしょう!?」

「だってマ・・・。 が、そういう時計を付けている女子は危険って」

「何ですか、それ・・・。 テレビの知識?」

「いや・・・。 まぁ、いいや」


首を傾げる紺之介に瑠璃子はズバッと言った。


「というか、ずっと思っていたんですけど」

「ん?」

「紺之介さんってマザコンでしょう?」

「・・・はぁッ!?」


明らかに動揺した紺之介であるが、その動揺の激しさからもバレバレであった。


「今だって“ママ”って言おうとしていたのがバレバレですよ。 父神家とかも何かおかしいし」

「いや、それは・・・!」

「とりあえずみんな行きましょう!」


瑠璃子がそう言って突然立ち上がった。 鋲斗が不思議に思って問いかける。


「行くってどこへですか?」

「これから共同生活を始めようっていうのに、隠し事は一度解消した方がいいと思うの!」


秘密。 その言葉に男性陣は強張った。


「ぶっちゃけ、みんな何かあるでしょ? アタシも秘密にしていたことを暴露するから。 まずは紺之介の部屋にレッツゴー!」

「あ、アタシ!? しかも呼び捨てって・・・。 ちょ! ちょまぁぁぁぁッ!?」


瑠璃子が先導し紺之介の部屋へ向かった。 盛大にドアを開き、目に飛び込んできたのは“I Love ママ”の言葉と共に紺之介と中年の女性が恋人繋ぎで歩いている瞬間のポスターだった。

しかもそれだけではない。 ツーショット写真は部屋のいたるところに飾られている。


「「「・・・」」」


皆言葉を失う。 紺之介は膝をついてうなだれていた。


「どうして勝手に部屋を開けるんだよ・・・」


その言葉を聞いて申し訳なさそうに瑠璃子が言った。


「あー。 アタシ実はこんな見た目だけど、バリバリのギャルやってたんだー・・・」

「「「・・・えぇッ!?」」」

「どうして急にそんな告白を・・・」


紺之介の問いに瑠璃子は答えた。


「ちょっとね。 このまま隠そうと思っていたんだけど、やっぱりどこか後ろめたい気持ちがあって・・・」


この後全員秘密にしていたことを暴露した。 ちなみにであるが、瑠璃子がギャルだっただろうということは一同薄々気付いていたということは言うまでもないだろう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る