わらしべハウス⑨
戻った鋲斗は二人に尋ねた。
「どうですか? いい名前は思い付きましたか?」
「それがまだ・・・」
瑠璃子と紺之介は特に二人で話し合っていたわけでもなさそうで、まだ何も思い付いていないということだった。
「そんなに焦ることでもありませんからね。 みんなが納得するものをゆっくりと考えましょう」
お茶を差し出すと鋲斗はリビングから出ようとする。
「オーナーさん、どちらへ?」
「次の物々交換のものを考えようかなと」
そう言うと三人の表情が強張った気がした。 だが気にせずに鋲斗は自室へと向かう。 やはり漆黒の部屋は気分も落ち着いた。
―――このぬいぐるみは我が眷属にするには少しばかり愛らし過ぎるな。
―――魂の価値が上回るものと言えば、何があるだろうか?
「・・・ん?」
ぬいぐるみを見ながら考えていると、ぬいぐるみから微かに香水のような香りがすることに気付く。
―――何だ、この誘うような甘い香りは?
―――それに・・・。
何か赤い塗料のようなものも付着していた。 それを見て首を傾げる。
―――・・・まぁ、いいか。
―――接吻模様のように見えるが、よくある浮き出てきた血の染みにも見える。
もっともプレゼントに不満を言うわけにもいかないため、それ以上気にせず渡すものを考える。
―――ふぅむ、ぬいぐるみと価値が近しいものが見つからないな。
―――この手帳はどうだ?
漆黒の手帳はこの先目一杯、中二病で染めようと思っていたものだがまだ中は白紙だった。
―――丁度いい、これにしよう。
―――この漆黒の手帳はかなり探し求めて歩いたから、滅多に手に入らないものでかなりの価値がある。
―――なぁに、売っている店は分かったんだ。
―――いつでも新しいものを買うことができるさ。
―――・・・そろそろみんな、名前を決められたかな?
手帳を持ってリビングへ戻った。 三人は大分仲よくなったようで笑顔が増えている。
―――このメンバーなら新しい家族、とやらになれるのかもしれないな。
「どうですか? いい名前は浮かびましたか?」
「何となく決められそうではあるかな」
「では紺之介さんから提案していってください」
最初に言った紺之介から発表することになった。
紺之介:(ママが大好きっていうことを悟られない名前を提案すればいいんだろ? そんなの簡単じゃないか。 つまりママの反対は・・・)
「父神家(ちちがみけ)っていうのはどうだ・・・!?」
紺之介の言葉でリビングはシンと静まり返った。 顔を引きつらせながら瑠璃子が言う。
「ちょっと、ちちを噛むだなんて、流石にないと思うんですけど・・・」
「違うよ、瑠璃子ちゃんッ! 父とはママの反対の存在のことだって!!」
「何、その変な言い回し・・・。 それに何か犬〇家みたいで呪われそう・・・」
「ばッ! パパはママのハートを射止めた最高のラッキーマンなんだぜ!? まさに幸運の象徴! 呪われるなんてことがあるわけないだろ!?」
「というか、パパとママ・・・?」
紺之介のテンションに何となく場が白けている。 瑠璃子は紺之介の親の呼び方に首を捻っているようだ。
―――何だろう、この空気・・・。
空気を切り替えるため、鋲斗は先程の手帳を壮弥に手渡した。
「そうだ! これ、次のプレゼントです」
「手帳ですか・・・? 真っ黒ですね・・・」
「はい。 光を吸収するようなこんな真っ黒の手帳なんて他で見たことがないでしょう?」
「凄いですね、まるで空間に穴が開いているみたい・・・。 オーナーさんは黒色が好きなんですか・・・?」
「大好きです。 では名前を提案したら次に渡せる何かを探してきてください」
「分かりました・・・。 でもいいんですか・・・? こんなに高そうな手帳・・・」
壮弥:(正直全然可愛くないからいらないんだけど、折角もらったプレゼントにそんなことを言っちゃ駄目だよね・・・)
「壮弥さんのぬいぐるみよりもいいもので渡せそうなのがそれしかなかったんです」
「なるほど・・・」
「では、壮弥さんが考えた名前を教えてくれますか?」
漆黒の手帳を喜ぶに決まっていると思っている鋲斗はニコニコしていて、可愛いもの好きの壮弥はお気に入りのぬいぐるみの代わりに好みでないものを受け取り不満気である。
それでもオーナーである鋲斗に聞かれ、すぐに思案を始めた。
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