わらしべハウス⑧
鋲斗は皆のためにお茶とお菓子でも用意しようと立ち上がった。 それを見て瑠璃子が尋ねかけてくる。
「どこへ行くんですか?」
「みんなの分のお茶を淹れてきます」
「なら私も手伝います」
「いえ。 これから家事は瑠璃子さんにお任せすることが多くなりそうな気がするので、今日くらいは僕にさせてください」
「・・・分かりました」
瑠璃子:(やっぱり超ピュアで素敵な人ーッ! いくらでも目で追っちゃうわ!)
目を輝かせている瑠璃子を背に、鋲斗はみんなの分のお茶を用意するためキッチンへ向かう。
各自の部屋は片付け全てのものを倉庫へ移したが、キッチンには住んでいた当時の名残がほとんどそのまま残っていた。
―――・・・父さん、母さん。
―――父さんと母さんがいた頃よりも人数だけは増えたよ。
―――賑やかなのが好きだった二人だから喜んでくれているかな。
何気なくリビングを見渡した。
―――・・・俺はこの家を手放すことができなかった。
―――だからこうして俺が今でもここに住めるよう部屋を貸し出すことにしたけど、これでよかったのかな。
「・・・あ」
しかしカップを用意しようとして手が止まった。
「足りない・・・」
食器は基本的に三組で揃えていたため、四人だと一人分足りないのだ。
―――どうしよう・・・。
―――この三組はみんなに使ってもらおうかな。
―――俺は別のでいいから・・・。
本当は人前では昔を思い出したくなかった。 だが今は背を向けていることもあり感情が緩んでしまった。
―――・・・父さん、母さん。
―――どうして俺を置いて死んじゃったんだよ・・・!
一滴の涙が流しへ零れて消えていく。
―――分かっている、そんな風に思っても何の意味もないって。
―――・・・それでも早くない?
―――俺はまだ成人もしていないんだよ。
その時一人の影が後ろから現れた。
「あの、大家さん・・・。 やっぱり僕も・・・」
「ッ・・・!」
やってきたのは壮弥だった。 突然の登場に涙を拭くことができなかった。 壮弥は鋲斗を見て驚いたのも無理ないのかもしれない。
「え・・・? オーナーさん泣いてるの・・・!?」
「あぁ、いや。 何でもないですよ」
慌てて涙を拭き笑顔を作る。
「でも・・・」
「今のことは二人には秘密にしておいてくれませんか?」
そう言うと壮弥は時間を空けて頷いた。
「・・・はい・・・」
壮弥は鋲斗の隣へ来て背中をさすってくれた。
「事情は聞きません・・・。 おそらく一人になって大変なことがあったんだろうなって思っていました・・・」
「・・・」
「でも僕たちはもう仲間じゃないですか・・・!」
「仲間・・・」
「はい・・・。 みんなで共有すれば嬉しさは倍増し、悲しみは半減できるんです・・・。 だから気軽に頼ってください・・・ッ!」
それを聞いていつの間にか鋲斗は壮弥の手を取っていた。
「え・・・?」
「ありがとうございます! その言葉で救われた気持ちになりました!!」
「本当ですか・・・? ならよかったです・・・」
「ところで壮弥さんはどうしてキッチンへ?」
「それは、その・・・」
壮弥はリビングに残っている紺之介と瑠璃子へ視線を向けた。 確かに何となくあの二人の間には入っていきにくそうだ。
―――・・・あぁ、二人の関係が近いから少し気まずくなってしまったのかな。
―――でもその壁もすぐに消えることだろう。
「それじゃあ新しい家族として名前を付けにいきましょうか」
「はい・・・!」
「お茶を運ぶの手伝ってくれますか?」
「分かりました・・・!」
先に鋲斗が二人分の飲み物を持ち運んだ。
壮弥:(オーナーさんも意外と結構いいかも・・・)
鋲斗は知らないことだが、壮弥は鋲斗の去った後自身の手を両手で握り締めていたのだった。
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