わらしべハウス⑦
シェアハウスが安い家賃でも運営していけるのは、共用部が多く文字通り入居者たちの共同生活で成り立っているためだ。
各自が好き勝手すれば当然上手くいくはずがないため、個人の役割やルールなどを決める必要があった。
もちろんオーナーである鋲斗が決めてしまってもいいはずだが、できれば共同生活のパートナーとして意見を出し合ってやっていきたいと思っていたのだ。
「相談ね、もちろんいいよ。 例えば?」
「まず最初は・・・」
元が個人の住宅であるため、共用部は当然ワンセットしか用意されていない。 トイレだけは一階二階と個別に設けられてはいるが、他の水回り設備は一つだ。
増設することも考えたが、このままやっていけるのであればこのままいった方が鋲斗もお金がかからず有難い。 そう思っていたのだが、瑠璃子から別の意見が飛び出していた。
「名前を決めましょう!」
予想外の提案に男子の視線は瑠璃子に注目する。
「・・・名前、ですか?」
「そう! このシェアハウスグループに名前を付けた方が楽しいと思うの!」
両手の平を合わせ頬の横に持ってくる瑠璃子はとても楽しそうだった。 それを見た紺之介が驚いたように言う。
「瑠璃子ちゃん、名前を付けたがるってパリピみたいだね・・・」
「えぇ!? いや、そういうつもりじゃないんだけど・・・。 名前を付けるのって別に普通じゃない?」
そう答えたが、二人は視線を彷徨わせていた。
紺之介:(まさか見た目通りの大人しいタイプじゃないのか!? いや、そんなはずは・・・。 こんな清楚な見た目して中身がパリピだったら、超ヤバいって・・・ッ!)
瑠璃子:(確かにアタシは何でも名前を付けるのが好きよ!? その方が愛着が沸くからね。 でもそれってギャルでもギャルじゃなくても、女子なら普通やることじゃないの!? 紺之介って面倒な男ね!)
「えっと・・・」
鋲斗は二人の対応に困っていると壮也が援護した。
「あの、名前はあった方がいいというのには賛成です・・・」
「壮弥さんも瑠璃子さんの意見に賛成というわけですね」
「オーナーさんが中に入っているのは変則的だけど、結束力強まると思うし・・・」
“結束力”という言葉に反応した。
―――なるほど・・・。
―――血盟を結び、絆の力を強めることで悪を打ち砕く、か。
「分かりました。 では各自どんな名前がいいのか考えましょう!」
その言葉に壮弥は驚いていた。
「え、オーナーさんが決めるんじゃないんですか・・・?」
「どうして僕なんですか?」
「だって、ここのオーナーさんだから・・・」
自信なさ気に言う壮弥の言葉に鋲斗は三人に向かって言った。
「考えていたことがあるんです。 僕は確かにこの家のオーナーですが、それ以前にみんなと仲間になりたいんです」
「仲間、ですか・・・」
「はい。 ですから立ち位置もみんなと同じになりたいんです」
壮弥と紺之介は少し難しい顔をしていた。 だが瑠璃子だけは違う表情をしている。
瑠璃子:(この自信なさ気ボーイ、よく言ったわ! オーナーと一緒の立ち位置とか嬉し過ぎない!? もうこれは遠慮なくグイグイいってもいいということよね? これはラッキーチャンス!!)
「最初は難しいかもしれませんが、少しずつオーナーではなく一人の入居者として見ていただければ嬉しいです」
その言葉に紺之介が言う。
「でもいいのか? オーナーの方が色々とやりやすかったりするんじゃ」
「それはそうですけど、僕たちはほとんど年齢が変わらないんですよ? 壁がある方が悲しいです」
「そっか。 オーナーがそう言うなら」
「ありがとうございます」
瑠璃子が言った。
「同じ仲間って素敵ですね。 でもオーナーさんは私たちより儲けているんだから、たまには還元してくださいね?」
「・・・? はい、それはお約束します」
「やった!」
喜ぶ瑠璃子に男子たちは違和感を持っていた。
壮弥:(瑠璃子さんは見た目の割に結構グイグイいく感じなのかな・・・?)
紺之介:(何か最初に抱いた瑠璃子ちゃんの印象から少しずつかけ離れていっているような・・・。 でも俺の気のせいっていうこともあるしなぁ)
―――瑠璃子は血の契約に喜びを見出すタイプか?
「ではこの家の名前を各々考えましょう」
違和感が残る中鋲斗が仕切り一度自由時間になった。
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