18日目 先生、なんかあったでしょ~?
白石さんの歩行手段に関しては結論が出ないまま進んでいった。最終手段としては二択を迫ることになる、歩行器で歩くか、歩行器を使わない生活をするのか。
歩行器を使わない生活、例えば車いすの生活、転倒ありきで何も持たないフリー歩行の生活スタイルみたいな感じだが、選択肢としてだすがこちらには行かないように誘導していく。
この二択になった時点で正直、結論は一つにしかならない。歩行器をもって生活する、その選択を自分でしてもらうように話を持っていく、それは最終手段でやろうと思えば簡単だ。本人の意思を真正面からではなく遠回しに、だけど逃げ道をなくしていくようにして話していけばいい。
腕の見せ所は第三の選択肢を用意できるかどうかなのだが・・・正直言って難しい。俺はクリエイティブな思考もないしハイセンスなオシャレさんでもない、考えてみたが代案が思いつかない以上やるべきことは一つになる。
「先生、最近暗いけど大丈夫?」
臨床中だって言うのに目の前の患者さんに集中できていなかった。
ん?いや、白石さんのことを考えていたんだし、白石さんを治療中であれば別に集中していないわけでもないか。
「いえ、大丈夫ですよ」
とりあえず、もう一度考えてみて、それでもやっぱり第三の答えが導き出せなかったら、歩行器の選択にしよう。
ここは患者さんに折れてもらうしかないな。
リハビリのセラピストに限らずだが、すべて患者さんの希望をかなえることはできない。そのたびに患者さんには選択してもらうしかない、ほかの職であれば気に入らなければ別の店に行くなりなんなりできる。もちろん、病院でもセカンドオピニオンというものがあり気に入らなければ別の病院に行くこともできる。ただ、普通に病気や治療の方針が間違っていないのであれば打ち出されるものは同じである。
勘違いする人もいるかもしれないが、セカンドオピニオンに行けばすべてが解決するというわけではない、正直よっぽどひどい医療を受けたり、誤診に次ぐ誤診みたいな状況でない限り劇的に現状が変わることはない。
「絶対大丈夫じゃないよー!先生、ストレッチするときに黙ってやることなんてなかったのに、今日ずっと黙ってるよ?
先生、何かあった?彼女に振られた?私でよければ話聞くよ?」
「静かな時ぐらいありますよ?それに彼女はいませんし、いても相談しませんよ」
職場でプライベートを話したら最後、次の日には同じセラピストはおろか看護師の間まで噂になり、そんな噂が大好きな、清水先生が朝礼後と同時に俺にところに飛んでくるのは間違いないな
そんな一ミリも俺にメリットがないことは絶対に言わない!
実習中に俺は見たんだ・・・バイザーの先生がちょっと彼女とうまくいっていないと言っただけで病院中みんな知ってる状況になり、いたたまれない姿になっていた。俺はあんな風には絶対になりたくない・・・あれはいくら何でもむごすぎる
「へぇ~、西城先生彼女いないんだ」
白石さんの小さくつぶやいた言葉は西城が過去のトラウマを思い出していたこともあり耳には入らなかった。
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