17日目 合理的な答え

「はぁ~」


あの場ではカッコつけてみたが、正直いい案が思いつかない。もういっそ考えることをやめて、とりあえずは杖でもいいんじゃないかという悪魔の考えもちらつくことがあるぐらいだ。


「先輩どうしたんです?」


後輩の京極は俺が上手くいっていない時に目ざといぐらいよく気づく。その力をどうして患者さんにも向けれないのかと本気で考えるぐらいに鋭い。俺が分かりやすいだけなのかもしれないが、上司からは「悩んでいたことすら分からない」といわれるぐらい表情や雰囲気には出にくいはずなのだが・・・

あれか、席が隣だからだな。それにしても後輩に心配されるようではまだまだだな、最近は己の未熟さが顕著になってきているせいか自信を無くすな


「京極、自分がもし歩行器を持つようになったらどうする?一度は考えるだろ、もしこの病気になったときに自分だったらどうするのか、どう考えるのか、どうしてほしいのか。」

「もちろん、考えます。先輩はおそらく白石さんのことを言ってるのだと思いますけど、私自信が同じ状況だと、普通に歩行器使います。先輩の求めている答えとは違うと思いますけど、知識としてこれ以外で歩行することが困難なのだと分かっていますから、歩くために必要であれば迷わず使います。それに私は外観とか気にしませんからね」


京極は一般的に言う美人に分類されるようなきれいな顔立ちをしているのにも関わらずファッション的な面が疎い、別に俺も敏感というわけではないが。それに京極の答えは完全に”知っている”側の答えだ。つまり知識がある人間からすれば選択肢がそもそもないのだ。

まず、歩くか歩かないかの二択であれば歩くしか選択肢にない、なぜか、今まで歩いて生活していて工夫さえすればまだ歩けるのであれば今までの生活スタイルを捨てるより、工夫して今までと似たような生活にするからだ。

次に、歩くということが決まり、歩くためには歩行器が必要であれば歩行器を使う、ただそれだけなのだ。俺たちはそこの答えにたどり着く前に感情は除いて考える、感情は人それぞれであり、合理的に物事をまずは考えて、そのあと一番いい答えを導きだしてから患者さんの特性、性格、環境を含め個別の対応をする。


「まあ、その答えになるわな。」

「というと、本人が持ちたくないと言っているのですね。私にはわかりませんが、これが先輩がよくいっている患者さんに寄り添うということなんですね」

「若い女性なんて担当する機会滅多にないし、京極の意見が参考になるかと思ったんだが、”知ってる”側の人間だと合理的に答えだすよな」


”知らない”側の人間、つまり一般の素人であれば感情を優先することも多いし、それは当然のことだと俺は思う。だが、だからと言って手をこまねいているものプロとしては問題なんよな


はあ、本当に困ったな。

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