14日目 想定しうる最悪
コンコン
静かに病室のドアをノックする。
「失礼します」
「ほら、先生、来たみたいだよ?」
担当の看護師が俺を見てあとは任せた!といわんばかりの表情をして部屋を出た。
「うぐっ、ひぐっ」
年頃の女の子から聞こえてはいけないような声が聞こえた。それも断続的に、一定のリズムがあるかのように
結論を言おう。泣いているのだ。
この状況で西城はかつて自分が実習に行った病院で指導者だった先生から言われた言葉を思い出していた。
「西城君、我々、理学療法士はどう患者さんと接したらいいと思う?」
学生の俺はとりあえず思いついたそれらしいことを言ったと思う、明るくとか、笑顔でとか
だが、指導者の言った言葉は俺にとって患者さんと関わるうえで基本的な考え方の一つになったことがある。
「私の思う理想は、患者さんの求めるキャラクターで接することだと考えているんだよ。我々は患者さんの前では役者なんだよ」
患者さんの一番接しやすい話し方、キャラクターそれが一番リハビリをする中で最もスムーズにいくのだ。
明るい人間が嫌いな人もいる、笑顔を愛想笑いとらえてくる人もいる、物静かなのを好む人もいればおしゃべりもいる。だから求められるキャラクターを演じるのだ。
「(といってもこの状況どうするのか、まずは話を聞かないとな)」
「先生」
俺が考え事をしているときに泣き止んだのかしっかりとした声で白石さんは呼んだ。
「先生、よくなったって言ったよね」
なるほど、その先は聞かなくても分かった。およそ想定される最悪の状況だ。
医療職が最も危険信号を出している言葉が「治る」だ、この言葉はよくドラマとかでは使われるが現場ではよほどのことがない限り使わない。理由は簡単で、患者さんの「治った」と医療職の「治った」には乖離があるからだ。
例えば脳梗塞で半身麻痺になったとしよう、この時、医療職の目標は麻痺があっても歩けるとして、最初は歩けなかったのに歩けるようになった、だから「治ったよね」と。
だが、患者さんは麻痺自体が「治る」と考えていたため、乖離が生まれる。
今回、俺が一番失敗したのは、俺自身は「良くなった」「治った」は使わなかったが、白石さんが言った「良くなった」に対して話を掘り下げなかったことだ
仕方ない、ここは嫌われてでも俺の裁量でいえることを言うとしようか、ここで誤魔化すのは下策だ、失敗を取り戻すならこのタイミングしかない。
「いいえ、良くなったとは言ってません。骨がくっ付いて動かしていいと言いました」
「でも、先生、それってよくなったんじゃないの!」
「白石さん、今回の骨折と
さあ、ここから一つ一つ説明して誤解を解かないとな。
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