13日目 起きてしまった事故

白石さんの腕の調子はだいぶ良くなっていた。痛みも引き腫れてもおらず、ここから本格的にリハビリを行って前と同じ状態まで動かせるようにするのだが、事故は起きた。


最近は白石さんの心理状態も落ち着いてきており、突然泣いたり怒ったりすることはなくなってきていた。少しずつ自分の病気に対して受け入れてきているようにも思えた。


「それでは白石さん、明日から本格的に腕のリハビリを始めますね。」

「先生、具体的に何するんですか?」

「まずは状態を評価して、そのあとに手を動かす練習ですね。利き手を骨折していますしね」


それに、MSA-Cの症状もある。症状の一つの失調症状は手が震えてうまく動かせなくなる症状だが、何が困るかというと細かい動きが震えて難しくなる。例えば箸を使うことや文字を書くこと、これらは症状の度合いにもよるがかなり難しい。

おそらく、その現実を突きつけられたときに本当の意味で自分の病気に向き合うことになるのだろう。病気で何が苦しいのか、それはさまざまあるが一番良く言われるのが「今までできていたことができなくなる」ということだ。


「じゃあ、だいぶ良くなったんですね!」


この時の白石さんの言葉をもっと深く考えていればよかった・・・いや、そう思うのは後の祭りだな


「前に比べると骨も完全くっついていますしお医者さんからも動かしていいと許可貰いましたしね」

「そうですか!じゃあ、先生よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」



その日はそのままリハビリを終えて控室に戻ったのだが、その30分もしないうちに内線が鳴った。


「西城君いますか?」


白石さんの担当の看護師からだ。看護師から連絡が来るのは珍しくない、患者さんのコミュニケーションの取り方から症状、生活能力についてなど情報共有するからだ。だから今回も同じように情報共有化と思ったのだが


「白石さんが転倒して、足を捻挫したみたいです。本人はもう腕がよくなったから歩けると思ってって言ってるんだけど西城君何か知らない?」

「すみません、分からないです。」


おいおい、なぜだ!?


「もしかして・・・」


もしかして、白石さんは障害受容、つまり病気の受け入れがそもそもできていなくて骨折とMSA-Cを混合して考えているんじゃないのか?

もちろん、普通に考えたらそんなことはあり得ない、だが人間は精神的に追い詰められて余裕がなくなると普通に考えたらわかるでしょ?って内容でも混乱することがある。

まさにその状態ではないのか?


そう思ったら俺は白石さんの病室に足を運んでいた。

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