11日目 共感
白石さんのリハビリを終えて、リハビリの控室でカルテを記載していると後輩の京極が話しかけてきた。
「先輩、今日大変でしたね」
何のことかと思ったがどうやら、白石さんの感情が爆発した声が部屋の外まで聞こえてたみたいでたまたま京極が廊下で患者さんの歩行練習をしていたらしく、ビックリしたらしい
「まあ、病気を受け入れるってのは簡単じゃないからな」
「でも、あんなに感情が荒れるものなんですね、あんな感じで言われたら私我慢できるか自信ないです」
ああ、なるほど。京極にはきっと悪気はないんだろうな、だがこの発言はまずい。俺たちは制服を着たその瞬間からプロであり、プロである以上、患者さんファーストの考えが求められる。たとえプロである前に人であるから傷つくことはあるけど、それを患者さんの前で出すのは素人だし制服を着ているときは患者さんがいなくてもプロとしての振る舞いが必要だと俺は思う。
中には患者さんの前じゃないからと患者さんの陰口を言う人もいるが、そんな人は本人はうまく隠しているつもりでも言葉の端々や態度で出てくるものだ。
京極にはそんなクズのセラピストにはなってほしくない、少なくても俺はそんな奴に見てほしいとは思わないからな
「いきなりあなたは重病です、この先歩けなくなるし、なんなら寝たきりになりますって説明受けたら穏やかに受け入れろって方が至難の業だと思うぞ。その病気のことを知ってる俺たちでさえ受け入れられないのに何も知らない患者さんの気持ちは計り知れないはずだ。」
「でも、だからってあんな風に言われると傷つきますよ」
「そうだな、確かに傷つくけどまずは相手の立場になってみて考えてみるといい。多分、京極にとって今の課題だと思うぞ」
京極はペーパー的な、教科書的なことは問題ない。基本的な知識もあるし勉強もしているんだが、実際の臨床になるとうまくいかないことが多い。理由は患者さんとのコミュニケーション不足、もっと言えば患者さんに共感しようとしないことがある、別に患者さんに共感することがすべてじゃないし中にはそんなことよりも的確に治療してさっさと治してあげたほうがいいって考えもあるが、その結果、患者さんとの協力が得られず結果的に時間がかかることも多々ある。何ならリハビリ自体ができないこともある、だから俺はコミュニケーションに初日は時間を使うわけだが・・・
まあ、京極にはおいおいと伝えていくしかないな
そんな京極沙世が成長し患者さんとのコミュニケーションが取れるようになるのは別の話。
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