9日目 インフォームドコンセント

突然というには予測の範囲内だったが、面と向かって言われるとなかなかくるものがある。

プロだからコントロールできるだろうとよく言われるが、プロである前に人間だから、やっぱり傷つくことはある。

例えばどんな時か、それはな。


「西城先生が言ったんですか!?先生のせいで私は!重い病気って言われましたッ!先生が黙っててくれればこんなことにならなかったのに!」


今日、清水きよみず先生から白石さんへIC、インフォームドコンセントが行われるのは知っていた。インフォームドコンセントとは説明と同意のことで業界的な使われ方は患者さんに病状の説明や今後の治療方針の確認なんかをする時間とされてる。

今日の予定でインフォームドコンセントをすることは分かっていたからけど、俺には一抹の不安があった。

清水先生はいい先生だがちょっとだけ軽いところがある、もちろん、患者さんに配慮できないって言ってるわけじゃないんだが。そう言い換えるなら少し空気読めないことがあるんだ、患者さんが自分の病気を受け止めた後であれば、問題がないわけじゃないが問題にはならない。一番困るのが最初の説明だ、患者さんからすれば受け入れができていない状況だからな

たぶん、ぴしゃりと言ったんだろう。その話を聞いたらどうなるか、まずは直後は驚きが最初に来るはずだ、そのあとは、どうして自分だけ、なんで、誰のせいでと怒りが出てくる。そして大体その怒りを受けるのは看護師かリハビリだ。

個人的にはリハビリの方が言いやすいからかよく言われると思う、というのもリハビリは一対一で関わる時間が最も長いからな、それは普通にしてれば言いやすくもなるわな


ちなみに白石さんの主張はこうだ。

清水先生からMSA-Cと説明を受けた。どうしてわかったかっていうのは西城が見つけてくれた。先生は大きなけがを今後するかもしれないから早く見つけれてよかったと。

でも、白石さんからすればそんなもの見つけてほしくなかったと。嬉しくもない発見をした西城まじ腹立つ、諸悪の根源!

みたいな感じだ。


本質を見誤ってはいけない、理不尽に怒るなんて子供じゃあるまいしと腹を立てる前にどうして怒っているのかを見極める必要あがる。


きっと、白石さんは本気で俺を責めているわけじゃない、急にあなたは重病ですと言われて受け止めきれないのだ。それに先の見えない状況に不安が押し寄せてどうしていいか分からないのだ。だから感情が抑えきれないのだ


だから一言、言ってあげるだけでいい。


「不安、ですよね。」


烈火のごとく言葉が出ていた白石さんの口が止まった。


「ッ!」


スーッと血の気が引いて


「すみません」


と一言。


「きっと今日は一度にいろんなことを言われて受け止めきれなかったですよね」

「先生、私・・・」


白石さんは大粒の涙を流しながらこっちを向いていた。

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