3日目 ドジ・・・いや素直なだけな

想像を絶する転び方をした白石さんの話を聞いてもしかしたらと思い足の怪我を疑ったが結果から言えば問題なかった。

本人に了承を取り触診、打診、関節の運動を行った。それらのことを評価とリハビリの中ではいうのだが評価中に白石さんから


「なんかプロみたいですね」


と何とも反応に困ることを言われた。一応プロですからと返したものの、いったい俺はどんなふうに見られているのだろうか


「怪我もないようですし少し歩いてみますか?」


何気なしに言ったが、白石さんはパァと明るい顔をして


「いいんですか!?」

「え、ええ。大丈夫ですけど」


なんでそんなに喜ぶんだ?


「よかったです、なんか看護師さんからはおとなしくしとくようにって言われて、ずっと部屋の中にいたんですよ」


ああ、なるほど。この人、言い方をぼかせば素直なんだな。言葉には気を付けたほうが良さそうだな

ちなみに我々リハビリの職種に限らず医療職種は患者さんのことを否定してはいけないってのを教育される。それが自分にとって受け入れがたいものでも患者さんにとっては当たり前の価値観だったりするので、あくまで患者さんファーストの考え方にすることが求められる。

だから、この場面でそんな「あほなことあるか!」とかいうのは問題外だ。どう反応すればいいか?簡単だ


「そうなんですね。リハビリの僕と一緒なので大丈夫だと思うでの行きましょうか」


否定せず、「そうなんですね」と流しておくことだ。まあ、大体これで問題に発展することはない。

共感できることであれば共感すればいいが、この三年間で学んだことは嘘はバレるということだ。リハビリは大体一時間ぐらいやるが一時間毎日同じ人といたら嘘かどうかなんてわかるものだからな


白石さんは勢いよくベッドから立ち上がる。


瞬間ふらつく


さっと支える。リハビリのセラピストは人の動きや動かし方に敏感である程度予測ができる。


「先生、ありがとうございます。」


エヘヘ、と笑う白石さん。


「さて、じゃ行きましょうか」


最初こそふらつくことがあったがそのあとは安全に歩けていた。その日は簡単に体を動かしてリハビリを終わった。何度かふらつく場面もあったが本人は腕を固定してるからバランスがとりにくいと呟いていたし、俺もそんなこともあるかと聞き流していた。


「では白石さん今日はここでリハビリおしまいになります。」

「あ、はい、ありがとうございました。あの、西城先生が私の担当なんですか?」

「ええ、そうですよ。リハビリする中で痛いことや挫けそうになることもあるかもしれませんが一緒に頑張っていきましょう」


よし、初日としては十分かな、なんて思っていると白石さんが嬉しそうな顔をしていた。理由を聞くと


「先生が初めてなんです。」


え?初めて?何の?ああ、リハビリの担当ってことか?


「初めて私のドジの話を聞いて笑わなかったんですっ!お医者さんにも別のことですけど笑われちゃって、だから看護師さんのいうことは守ろうと思ってたんですけど・・・なんか途中から看護師さんの言ってたことこれであってたのかなって思ってたんですけど、先生は流してくれたじゃないですか」


あ、あのことか!普段から心がけててほんとによかった、てかドクターよ患者さんの話聞いて笑うなよ、まあ悪意はないんだろうけど


「だから先生が担当でよかったです」


今日初めて見せた満面の笑みに、きっと緊張していたんだなと俺は思い知らされた。多分気を使っていたんだろうな、どんなセラピストが来るのか分からないし自分と合わなかったらどうしようとか、思ってたんだどうな。

そりゃリハビリは良くも悪くも患者さんと一対一でいる時間が最も長い職種だからタイプが合わなかったら患者さんにとっては苦痛だもんな

てか、気を使わせてたのは反省だな。


「白石さん、まだリハビリは始まってませんよ、それはリハビリが終わったときにお願いしますね」

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