センス

「一富士、二鷹、三茄子……か。派手な扇子だね、月子」


「ハイセンスだね月子、と言ったかしら。ありがとう、ノゾミくん」

「扇子の柄が派手だ、と言ったんだよ。まあ、月子の感覚はぶっ飛んでるからね。ある意味ハイセンスと言えなくもないな」


「お正月らしくて縁起がいいでしょう?」

「験をかつぐタイプには思えないけど」


「遠足や運動会の前日には、よくてるてる坊主をつくったものよ……」

「ダウト。体育祭に制服で挑むヤツがよく言うよ。どうせ逆さに吊るして雨を祈ってたんだろう? ありありと目に浮かぶよ」


「失礼ね。わたしにだって、遠足前日の夜にたのしみで寝れなくなる、というかわいらしい子ども時代くらいあったかもしれないわ」

「かもしれない、って自分で言っちゃってるし。月子のそんな純真な姿、まるで脳裏に浮かばないね」


「わたしだって人の子よ。無垢な少女だったこともあるわ」

「いまは邪悪ってことね」


「ノゾミくんのいけず……」

「ところで、元旦だというのに、ぼくたちはどこでなにをしているんだろうね」


「それを考えてはいけないわ、ノゾミくん。書かなければごまかせる。これは小説の強みなのよ」

「いや、ただの手抜きって言うんだよ。今回はまったく地の文がないし」


「いいえ。あえて描写しないことによって読者の想像力をかき立てるの。作者の用意した建前とも言えるけど」

「やっぱり手抜きの言い訳じゃないか」


「物は言いようなの。言い方を変えるだけで、本質は同じなのに受ける印象は変化する。たとえば、『窃盗』と言えば犯罪の印象が強いけど、『万引き』と言えば子どものいたずら感が出てくるでしょう?」

「うん、たしかに」


「いじめや体罰、虐待。これらは実際に手を出していれば、立派な暴行罪や傷害罪にあたるわね。犯罪者の罪の意識を薄れさせるだけだから、こういった言葉を使うべきではない、とわたしは思うの」

「正月早々、重い話になってきたね」


「たとえおめでたい日であっても、現実から目を背けてはいけないのよ」

「特大のブーメランとしてもどってくるな、その言葉は。手抜きの言い訳をしている作者のところに」


「そうね。戒めかもしれないわ。ともあれ、『月子とノゾミ』はこれからも続くから、読んでちょうだいね」

「オチもなく唐突に終わらせたね。まあ、いいか。めずらしくひどい目に合わなかったし。今年は平和でありますように……」


「わたしの第六感──シックスセンス──がささやいている。ノゾミくんにおだやかな日々は訪れない、と……」

「縁起でもないことを言うんじゃない!」

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