望の泣きどころ
「のぞみうすね」
「だれが薄毛だって? ぼくは薄毛じゃないぞ」
「ノゾミ、薄毛──ではないわ。望み薄、ね──と言ったのよ」
いつものとおり。ごくふつうの高校生による、ありふれた会話である。
「そうか、ごめん。ぼくの早とちりだったのか」
「弁慶ぎなた式ね」
「なにそれ?」
「文の区切りを間違えて読むことよ。いまきみがやったようにね」
「その『ぎなた』っていうのはどういう意味? 聞いたことない言葉だけど」
「意味を知りたければ、各々でかってに辞書でも引いてちょうだい」
「読者に丸投げか」
「いま新作長編の執筆で忙しいのよ、きっと」
「作者の都合か」
「ちなみに、この作品の作者は一度、ぎなた読みで改名しているのよ」
「なるほどね、そういうことだったのか。へんな名前をしてるなあ、とは思ってたんだ。なっとくしたよ」
「声に出して読みたくない日本語ね。言いにくいのよ」
好きでへんな名前をしているわけではないのだ。そもそも『くと』とはなんなのだ。意味わからん。
「ところで、話はもどるけど、なんの望みが薄いの?」
「ノゾミくんの髪の毛が四十年後もしっかり残っている可能性のことよ」
「は?」
「人の現在の写真から将来の姿を予想するアプリを使ってみたの。そしたらノゾミくんの髪の毛は──これ以上はわたしの口からは言えないわ」
「おい、ふざけんな! やっぱり早とちりじゃなかったじゃないか! ちきしょう、ムダに謝罪してしまった……」
「一度起こってしまった現実は二度とやり直せはしないのよ」
「ぼくの純粋な心をもてあそんだな」
「あんまりストレスをためるとハゲるわよ、ノゾミくん。いつも怒ってばかりいるわ」
「だれのせいだ!」
天に祈りを。願わくは、望の頭髪に一縷の望みを与えたまえ。
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