細く永く
今年も残すところあとわずか。みなさんはいかがお過ごしだろうか。
計画的な方はすでに大掃除や買い物を済ませ、ゆったりとした年の暮れを過ごすことだろう。ギリギリになって大掃除をはじめる方や、年末商戦で他の買い物客と激戦を繰り広げる猛者たちは、あわただしい年の瀬を迎えていることだろう。
十二月三十一日といえば、やはり年越しそば。とある立ち食いそばの屋台にて、注文したそばを待つ若い男女が肩を並べていた。
「ノゾミ君、どうして年越しそばを食べるのか知っている?」
「細くても長く生きられますように、って意味だと思うけど」
「有名なのはそんなところね。他にも説はあるかもしれないけれど」
「それで、今回はなにを言いたいんだい?」
ふたりのまえに、できたてのそばが置かれる。
「わたしはね、ノゾミ君。たとえ短いとしても、いまという一瞬を大切にして生きていきたいと思うの」
「ちょっと不穏な感じだね。まるで月子が短命みたいに聞こえるじゃないか」
望は笑って言った。
「そうね。そうかもしれないわね」
と言って、月子は割り箸を割り、つゆを一口。
「えっ?」
望はそばを食べようとする手を止め、隣の月子に目を向ける。そばをすする彼女の横顔が、彼の瞳にさびしげに映った。師走の冷たい風が、屋台を吹き抜けていく。
「そんなこと言って、いつもの冗談だろう?」
「わたしはきっと、長くは生きられないの。これにはたしかな理由があるのよ」
「短命の理由……」
月子の普段とは違うシリアスな雰囲気に、望は息をのんだ。
「それは──わたしが美人だからよ」
「は? なんだって?」
割り箸で持ち上げた麺が、どんぶりのなかいっぱいに満たされたつゆへと落ちていった。
「美人薄命というでしょう? だからわたしは短命に違いないの」
「はあ……心配して損した。せっかくのそばが冷めちゃうよ」
望はようやくそばを食べることができた。
「信じていないみたいね、ノゾミ君」
「当たり前だろ。うどんよりも図太いその神経があれば、きっと長生きできるだろうね」
「女性に太いだなんて失礼ね」
「男性に言っても失礼だし、そもそも体型のことじゃないし」
つゆがしみたエビのてんぷらを口に運ぶ望。
「ノゾミ君が冷たいわ」
「そばを食べてあったまればいいよ。長生きできるようになるかもしれないし」
月子は割り箸でつまみ上げた麺を見つめながらつぶやく。
「願わくは、『月子とノゾミ』が細くても末永く続きますように……」
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