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「夕立は集まった。あとは彼女に告白するだけだな」
「……なあ理人」
「なんだ南雲」
「俺やっぱり告白できそうにない」
「なんだと?」
放課後の理科室で、机を挟んで向かい合う理人は眉間に皺を寄せた。机の上には夕立の満ちた五本のガラス瓶が一列に並んでいる。
けれど、俺の心の内には靄のように薄い暗雲が立ち込めていた。
「今更何を言ってるんだ」
「うん、まあそうだよな」
「神がお前の味方ってのは証明された。それで良いはずだろ」
「あーそれなんだけど」
意味が分からないと言う風な表情をした彼に、俺は言葉にしづらい感情をなんとか説明する。
「告白する勇気が欲しくて俺は夕立を追いかけた。お前のルール通り夕立を集めれば神様が俺の味方ってことが証明されて、文月さんに告白する勇気が生まれる。そんな風に思ってた」
理人は話を続ける俺を何も言わずじっと見ていた。
「でも正直、俺にそんな変化はない。神様は俺の味方なのかもしれないけど、傷つくのが怖くなくなったわけじゃない」
俺は目の前に並んだ小瓶を視界に入れながら言う。
何も思わなかったわけじゃない。あえて考えないようにしてたんだ。
一度そう思ってしまえば、足が止まってしまいそうだったから。
「本当にこの瓶の中に俺の勇気はあるのかよ」
しんとした理科室に俺の言葉が響いて消える。
「……はぁ」
そんな理科室に、理人の盛大なため息が響いた。
「これだからバカは」
「なんだよそれ」
「バカだからバカって言ってるんだ。ちゃんと大辞泉は読んだのか?」
彼は一列に並んだ小瓶のうち一番右の小瓶を手に取り、上下を返して俺の目の前に置いた。
「逆様なんだよ、お前は」
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