第90話哀れな魔王
今回の日本政府の依頼は、魔王討伐に向けての魔王城をこと細かく調べることだった。
俺もあの場を早く逃げるので必死で、所々あやしい部分も多かった。
異世界へ行き、魔王の城を気配探知で調べて、魔物の居ないポイントにゲートを開いて侵入。
ここは1時間以上調べたが、魔物が近づかないポイントなので選んだ。
結界を展開していても油断が出来ない。
小型ドローンを取り出し早速飛ばしてみる。
モニター画面を見ながら窓から侵入を試みる。
長い廊下を進むと見回りの魔物が現れたので、一時停止した状態で魔物の動向を見守る。
気付かれていない。ドローンの下を通り過ぎた。
それを確認してそのまま進める。
突き当たりのわずかに開いたドアへ、当たることもなく侵入を成功させる。
魔王の後ろ姿が見えた。
小型ドローンにはやはり気付いていない。
小型ドローンのアームを稼働して天井にどうにか掴み張り付いた。
カメラの向きを調整して、魔王の後ろ姿をとらえる。
そのまま監視を続ける。
本当は正面からとらえたいが、バレそうで今回は取り合えず止めておく。
魔王が見ているのは中国のゲートで、30分後に今は無くなったゲートを一瞬見ていた。
やはり未練があるのだろう。
2時間が経過しただろう。
あれから魔王は微動だにせず立ち尽くしたままだった。
今回はこれで終了にして小型ドローンを引き返す。
次回はこの城の、俺が見ていない部屋などを調べるのも悪くない。
気配探知で地下に部屋が有るとこは分かっている。
結構大きな部屋が3部屋があり、その奥には牢屋らしき物の有るが中には何も居ない。
部屋には同じく生命の存在は無いが、荷物があり、気配探知ではその荷物が何なのかは分からない。
モニター画面で確認すれば分かるかも知れない。
ただしこのドローンで部屋を開けることが出来るだろうか、アームにそれを可能にする力は今のところない。
この点も魔改造する余地がありそうだ。
ようやく戻った小型ドローンを収納。
もっと魔改造して稼働時間を増やして、色々調べられるようにしたい。
その時、城の正門に魔物の集団が列をなして城へ入ってくる光景を目撃。
その数は、4000体以上の数で俺も見たことも無い魔物であった。
体全体がのっぺりとしていて目や口が見当たらない。
身長は3メートルもありそうで、歩き方も普通の歩き方でない。
何か滑るような歩き方である。
鑑定をして正体を調べる。
バリアン
Lv4
HP230
MP120
STR17 VIT7
DEF6 INT6
DEX11 AGI13
強化魔法(自身に魔法を掛けて、ステータス強化をはかる)
接近戦タイプの魔物のようで、どれ位ステータスが強化されるのだろう。
とんでもない魔物だった。
予備の小型ドローンを飛ばし、魔王城内へと向かっている。
飛行時間を10時間に磨改造を施され、ドローンのボディーも天井の色と同系色に塗り終えている。
前回は地下室前に護衛の魔物2体が居たが、今回は居ないのでチャンスだと向かっている。
到着すると、強化されたアームが重いドアを徐々に開け、ドローンが通れる程にすき間を開ける。
そこから進入して部屋のドア前に着たが、どうやら魔法で封印されていて改造されたアームでも開けそうにない。
あとの部屋も同じで封印がされている。仕方なく奥の牢屋へ向かう。
そこには白骨化した人が倒れていて、衣服から魔術師と判断。
引き返そうと操作していると、急に目の前にゲートが開いた。
誰が開いたのだ!!。
嫌な予感がする。
俺の目の前に、恐怖の気配が現れた。俺は悟った。
忘れもしない魔王がゲートからのそりと現れた。
逃がさないように、魔力の波動みたいな見えない物が広がっている。
「ようやく見つけたぞ。お前だったのか?」
俺の結界も、強制的に解除されている。
俺も全身から嫌な汗が噴出し。ゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
「驚愕しているな、お前には分かるまい。我には幾つもの探索スキルを取得している。あの時は油断したので気づかなかったが、本気になれば分かるのだよ」
「俺をどうする積もりだ」
「お前の存在は邪魔でしかない。死んでもらうしかない」
「魔王に聞く。なぜゲートを開く必要があった」
「分かりきった事を、故郷に戻る為だ」
「その故郷に何があるのだ」
「お前も日本人なら分かるだろう。親や妹が待っている。それにあの人も・・・」
「魔王に聞く。その人達が生きて居ると思うか?」
「何をバカな事を言うのだ。生きているはずだ」
やはり魔王は、なにも知らなかったようで、既に魔王の記憶に残っていた家族やあの人も探索し終えている。
家族の家の周辺は、火災により10キロ周辺が焼き尽くされている。
その周辺には、あの人の家もあった。
魔王が通う学校も、同じくあの人が通う学校で学校内は、黒い染みがあっちこっちに点在していた。
学校が始まって2時間後に襲われた。
掛け時計が壊れて床に落ちていたのが、その時間をさしていた。
俺が学校へ行った時の録画があったはずだ。
俺はタブレットを取り出し、映した動画を開いて魔王に見せる。
「魔王が放った魔物が引き起こした結果だ。ゲートを中心に100キロ内は全滅だ。俺の住んでいる兵庫まで被害が及んだ。だから俺も戦った」
魔王がスキを見せた瞬間に、どうにか逃げようと心に決めている。
魔王はタブレットを奪い取ると、真剣に動画を見続けている。
どうやら見終わった瞬間に、ゲートを開き中へ入って行ってしまう。
俺は助かったのか、膝を地面に付けゲートを睨み続けた。
ようやく呪縛が解けたように立ち上がり、意を決してゲートへ入る。
そこは岡山駅の広場で、魔王は居ない。
気配探知で探すと、学校に微かに気配を感じてゲートを開いて向かった。
あの教室でカバンが開かれていた。その横に魔王が倒れている。
ノートには女性名が書かれていた。そのノート掴んだ状態でうつ伏せに倒れていた。
鑑定で確認するも、死んでいる事に間違いがない。
あの恐怖の対象が、呆気なく死んだことに頭が付いていけない。
しばらく呆然としていた。
そして割れた窓から風が吹いてきた。
教室のゴミがカサカサと音がして、それでハッとして正気に戻った。
この辺は、マナも少ない地域で有るのに、最後の力を振り絞って来たのか?
窒息に近い状態で、顔が赤くほてっていた。
しかし、現実を見た瞬間に、魔王は何を考えたのだろうか?
俺と同じような体験でもしたのだろうか?
俺は、魔王の亡骸が哀れでしかなかった。
しかし魔王が死んだのに、広場のゲートの気配は消える事もなく存在している。
俺はスマホを取り出し、今回の事件を日本政府のホームページへメッセージを送った。
・ ・ ・ ・ ・ ・
その知らせは世界を駆け巡り、安堵と不安が駆け巡った。
ゲートは、閉じる事もなく開いたままだ。
その開いたままの国が管理して、異世界との貿易が続くようになった。
中国のクーデターも徐々に沈静化して、新たな民主主義の始まりとなった。
覚醒者をまとめるギルド協会は、他国の介入を許さない新たな異世界に、元魔王の土地を管理して独立する事を宣言した。
初代大統領に佐藤が選ばれた。異世界の玄関先を一手に担っている為、収入も多い。
俺も知らない所で、覚醒者が密かに話し合って協力体制を築いていた。
魔王が残した魔物の討伐も、新たな覚醒者を育てる生贄に成り下がっていた。
国連も異世界の玄関先を1つの国に任せるのでなく、ギルドに管理させる方が便利であった為に承認。
今後の両世界を未来に託した。
ゲートの出現で魔物があふれ人を襲い始めた【山奥で一人で戦いDIYにハマる男が居た】 @katuniro
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