第76話異世界へ行く
我々調査チームは、あの男の指定した座標位置に向かっている。
神戸から45名のメンバーを、運転者付き車に分乗して六甲山を走っていた。
そして座標近くで、車が止まり全員が降りだした。
「ここなのか、座標位置に間違いないか?」
「間違いありません」
「皆、準備を開始しろ。指定された時間まで1時間25分前だぞ」
車から機材を出し、誰が何を持って行くのか確認作業が始まる。
その作業も20分程で終わり、後は1時間も待つだけであった。
「ミサキ、なんだかワクワクしてきたよ。異世界だよ、本当に行けるなんて」
「わたしは、あの人に会えるか会えないか、だけが心配」
「何が心配なの」
「本当に来るのだろうかと・・・」
「誰かが来たぞ、あそこだ」
指差す方向に、皆の視線が向かう。
現れたのは女性だった。身長1メートル60センチぐらいで変わった服を着ている。
頭にはフルフェイスのヘルメットを被っていて、目が赤い事が印象的であった。
「私は頼まれた者だ。あまり詮索するな、指示に従わないならこの話はナシだ」
「指示には従う」
「これがダークレイ城塞都市へ入る時に渡す金だ」
袋がドサリと地面に投げ出された。
隊長のロバートが拾うと、何処から出したのか剣が45本も急に現れた。
「護身用の剣を用意した。身に着けておけ、都市内でも危険だと認識しろ」
「分かった。皆、身に着けろ」
速いもの勝ちで、男達は大きな剣を選んで身に着けている。
俺はそんな様子を、結界内で見ていた。
ドロスも上手く話せるように成ったが、アメリカのギャングドラマを見過ぎて話し方が悪くなっている。
「今からゲートが開くから、入った先のダークレイ城塞都市の商業ギルドへ行け。話はついているので、この割符を見せろ」
500円硬貨が半分に割られた物を、ロバートが受取りかざしながら見ている。
「ミサキ知っている。金を故意に切断すると貨幣損傷等取締法により罰せられるのよ」
「それなら、あの人に言うのね」
「言える訳ないわよ」
突然ゲートが現れた。
すると年老いた男性がダッシュして、触ったり匂いまで嗅いでいる。
「早く行かないと消えてしまうよ。城壁の左に行けば正門よ」
ロバートが皆をせきたてて、
「さっさと入って行け、GO!GO!GO!」
皆が入ったことを確認して、俺はゲートを消す。
結界を再構築してドロスも結界に入れると、ドロスが駆け寄り嬉しそうに見詰めてくる。
「どうだった。上手くできたかな・・・」
「ああ言った通りに上手くやったな」
ドロスはニコリと笑う。
異世界ではフロルが見守る段取りに成っている。
なので心配はないと思うが、事件は思わぬ事で発生する。
調査チームはそれに対処できるのだろうか・・・
調査チームが見た物は、高くそびえる城壁であった。
「本当に異世界に来たのか?」
「この壁やあの景色から判断して間違いは無いだろう」
「スマホも繋がらないし、位置情報も表示しません」
「皆!左に向かって進むぞー」
・ ・ ・ ・ ・ ・
首相官邸の総理執務室で椅子に座りながら、天井を見上げていた。
もう会ってもおかしくない時間なのに、ゲートへ無事行けたのか?その連絡がこない。
ドアからノックがする。
「入っていいぞ」
「失礼します。総理、無事ゲートへ入ったそうです」
「それで例の男はどうなった」
「女性が現れたそうです。フルフェイスのヘルメットを被っていて、目元しか確認できません」
「すると男の仲間か?」
「・・・これが撮られた動画です」
「なんだね、突然女が消えたぞ」
「只今原因調査中です。多分、魔法かスキルの類でしょう」
「そうか、アメリカにも知らせておけ」
「畏まりました」
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