第47話帝国に向けて




しばらくは商業ギルドで商品を売って、ここでは安い自然の宝石の原石を仕入れて。

日本に戻っては、日本政府のホームページを見てはガッカリして。

我が家のDIYの家具作りにも挑戦中で、そして中国の闇市で原石を売りさばく。


そんなことの繰り返しで4日目に、公爵から連絡があった。

受けたのはフロルで、話す事はできないので俺が戻った時に念話で知らせてきた。

すぐさま公爵邸の所へ飛び、門番に取次ぎを頼んだ。


広い執務室に案内されて、護衛の2人が仁王立ちでドア近くで睨みを利かせている。

熱い視線を感じつつ、椅子に座って待って居るとドアが開き公爵とバレッタ様がしずしずと入ってきた。

俺がひざまずくと、椅子に座りながら手をかざした。


「楽にすると良い、してトランシーバーに出なかったが如何どうしていた」


「狩りをしていました。なのでトランシーバーを持参しておらず、持っていた仲間も恐縮がって出なかったと言っています」


「そうか、それならば仕方なかろう。セバス」


公爵のうしろで隠れるように待機していたセバスが、


「不敬になりませんか?・・・仕方ありません」


「セバスは堅苦しいのよ、この方はわたしの恩人よ、そうですよねお父様」


「そうだな、今回呼んだのはこのバレッタが、帝国のパーティーに招待されてな警護を頼みたい」


「お任せ下さい」


この手の話は即答が基本だ。確か営業の基本の第2番に書かれていた筈だ。


「そうか、引き受けてくれるのか?」


「喜んでお受けします」


「今回も引き受けてくれて、ありがとう御座います」


「滅相もありませんハハァ」


「それではわたしが、打ち合わせをしますので付いてきて下さい」


セバスの後に付いてゆくと、部屋に入るなり厳しい顔で話し出した。

公爵は楽観的に見ているようだが、セバスの考えは違っていた。

共和国からも何らかの妨害が行なわれる可能性は大きく。

帝国の人間を使っての妨害が少ない情報としてセバスにも伝わっているらしい。

帝国側も同じで今回の事を好まない者が多いらしい。

特に難儀なのが、帝国に密偵が潜入しても帰ってくる者はいない。

どうして見破ることができるのか、それも分からず仕舞いだとセバスは話を締め括った。


3日後に出発で、朝一で来るようにと強く言われてしまった。


その3日間は、商業ギルドと日本と中国の間を何度行ったことだろう。

もう嫌と言う程儲かってしまい、中国では黄金の次に原石が求められていた。

土地転がしが不可能になったのが原因で、株価の暴落も止まらない現状だった。

それでも数字の誤魔化しで、どうにか持ち応えているようだが何時まで続くか分からない。




門番に案内されて公爵邸の前の広場に到着。

2台の馬車と3台の荷馬車が既に待機しており、隊長が俺を案内してこの荷馬車に乗るよう指示。

乗り込むと豪華なクッションの効いた長椅子と、一人用の椅子が2つがあり場違いな気がした。

振り返ると隊長がその椅子に座り待つよう言い放った。

馬車や荷馬車も準備ができたようで、トカゲにまたがった兵が先頭に20体うしろに10体に別れ整列。


バレッタ様と侍女がゆっくりと歩きながら、俺が居る荷馬車に乗り込んできた。

俺も薄々感じていたがこの様な作戦にでるとは、事前に知らせて欲しかった。

俺みたいな者はまだ信用が充分でないからかも知れない。

俺は跪きバレッタ様をうやうやしく迎えるだけであった。


侍女がそんなに固くならなくても良いですよと優しく声を掛けてくれた。

そして隊長の出発の号令が発せられると、一行は動き出した。


城塞都市を出ても、この荷馬車は上下に余り揺れない特殊な方法で、揺れない工夫でもしているらしい。

3時間も経過すると、侍女がおもむろに立ち上がりテーブルの上で何やらしている。

何とお茶を用意していたらしく、微かにバラの匂いがする。


「ザルザが入れるハーブティーは美味しいわ。ザルザ、あの方にも」


既に用意されていたのだろう。俺の前に綺麗なうつわを手渡される。

薄いうつわで公爵の紋章が描かれ、中の匂いがいっそうしみ込んで来る。

俺は念の為、鑑定をする。

[ロクロウジュのティー]精神を安定させる効果がある。

毒は入ってないようで、飲むと微かに甘みを感じて精神も癒される。


2時間後に荷馬車が停止して、休憩の様なので荷馬車から降りて、用を足す為ぶらりと森の中に入ってすませた。

これにも暗黙のルールがあり、男性は右側で女性は左側らしい。

図書館で仕入れた知識であった。


20キロ先から鳥の魔物の1羽が急に真直ぐに向かってきている。


「隊長! 20キロ先から鳥の魔物が向かってきてます」


「バリスタの用意をしろー」


1台の荷馬車に被せたホロがはがされ、荷馬車一杯のバリスタが出現。

着々と準備が進み、後は鳥の出現を待つだけ。

最初は黒い点であったそれが鳥と認識されると「ビシュン」と音がして。

見事に命中。落下した所には既に5体のトカゲと兵が向かっていた。

程なく兵達が戻り、隊長と話し込んでいた。


準備が整い、移動が再開される。

若干速いペースになったようで、夕暮れになっていないが小さな町に入りここで一泊するらしい。



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