第48話帝国




この町は公爵領で町の兵が朝早くから、城塞都市へ一行の状況説明に向かったらしい。

あの鳥が関係していることは間違いなかった。

何故ならあの鳥には人が乗っていたからで、もしかすると何か持っていたのか何やらきな臭い状況になった。

真直ぐ向かったことで、バレッタ様が目的であることに変わりはないだろう。


出発した一行は何やらピリピリしていて、バレッタ様だけがのんびりと本を読んでいる。

ザルザはしきりにこっちを見て、何か言いたそうであるが迷っているようだ。


俺は精神鍛錬の軽い瞑想をしながら、周りからマナを吸収していた。

この方法なら意識もしっかりしていて行動も速い。

ただしマナの吸収が少なくなるデメリットがある。

50キロ内には不審な動きもなさそうで、今回は何もないだろう。


「ねえ、ハジメって呼んでいいのかしら」


「はい、ハジメでいいです。バレッタ様」


「ハジメは沢山の旅をしたそうね、だから面白い話って沢山知っていると思うの、話してみてくれる」


「そうですか分かりました。むかしむかしお爺さんとお婆さんが住んでいました」


「何処に住んでいたの」


「そうですね、人が少ない村です」


「そうなの、続きをお願い」


「お爺さんは山に柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました」


「え!柴刈りって何なの」


「芝刈りですか・・・薪に火を付ける前に使う小枝です」


「そうなのザルザは知ってた」


「お嬢様、薪はすぐには火は付きません。枝や紙くずを使って火を起こします」


どうも質問が多くて話が中々進まない。日本の話だからダメだと思いシンデレラの話に変えた。

しかしダメだった。疑問に思ったことは聞かないとダメな性格なのだろう。

ザルザさんの方を見て、どうにかしてくれと合図を送った。


「お嬢様、そろそろお昼の食事時間ですので、やめた方がよろしいかと」


「そうね、ハジメありがとう」




そして旅は何事もなく順調に進み、5日目の昼過ぎに谷間の細い道を通っていた時に起きた。

山の中腹に急に人の気配が幾つも現れ、多分洞窟の中にでも隠れていたのだろう。

数人の旅人とすれ違ったが、その中の誰かが何らかの合図を送ったのかも知れない。


「隊長! 山の中腹に10人程います。気を付けて下さい」


「皆! 警戒しろ」


急に火球が2つ、こちらに向かって飛んできていた。

俺は飛び降り、【風斬舞】で火球2つを消し去った。

その間に敵の数が百人にも膨れ上がっていて、数十人が緑の服で緑の山に溶け込んでいる。

軍が使う迷彩服に似ている。


草が微かに揺れて、徐々に近づいている。

俺は【石弾】を作り次々に撃ち出し、仕留めないように足を狙う。

魔術士は既に仕留めて、残り30名が急に逃げ出してゆく。

監視者が倒れたのか、それとも撤退を指示したのかどちらだろう。

兵が山に入り倒れた者の所へゆくと、既に自決したあとであった。

死体を調べたが、身分がわかる物も何も所持していなかった。


逃げた者の中で強そうな者の影にフロルを忍ばせている。

何か分かれば念話で知らせてくれるだろう。


そして夕暮れ前に帝都に到着。

正門の兵に襲われた事を、隊長自ら報告。

帝国の兵100人が、早速事件を調べる為こちらの兵の1人と同行して現場へむかった。


2日目にパーティが開催されるので、それまでに到着できて安堵する。

この招待も急に決まったことで、充分な準備が無いままの出発だったので不安であった。


俺は4日後、帝国が用意した宿で待って入れば迎えがくる話になっていた。

なのでここでお別れだと思っていたが、隊長が2度の襲撃を重要視して俺の同行を命令してきた。

ここは逆らえない状況で、渋々従うしかなかった。


俺らが泊まる屋敷は、贈賄によって潰れた貴族の屋敷で、中で働く人々も以前のまま引き継いでいた。

なので働く人に対しても注意する必要がありそうで、料理中でも兵による監視がなされた。

俺は出される料理にそれとなく鑑定して、毒がないか確認している。

なのでゆっくり味わうこともできず、気が気でない1日が始まってしまった。



そしてようやくフロルから念話で知らせがきた。

帝国の第2皇子に与する貴族のホーレルが、命令していたことが明らかになった。

しかし証拠もなく、そんな情報を隊長に知らせる訳にもいけない。

引き続き監視を続けるしかなさそうで、ホーレルを監視すれば対応もしやすくなるだろう。


・  ・  ・  ・  ・  ・ 


「それでアメリカの国連に対しての圧力で上手く行くと思うか? 」


「少し時間が掛かりそうです。それは仕方ないことだと総理も思いませんか? 」


「それは分かっているが、どれだけ時間を費やしているんだ」


「あの男も分かってくれますよ」


「そうは思わないな、あれからメッセージを一度も発してないんだぞ」


「分かりました。少し危険かもしれませんが[各国に対応中なので待ってて欲しい]と知らせますか」


「そうだな監視されている身だが、ばれないことを祈ってやってくれ」


「それで例のプログラムの解析はどうなった?それと犯人は分かったのか?」


「保安の方で全力で対応しています。ハッカーにも協力させているようです」


「そんなことをしているのか、どうやら本気のようだな」


「それは面子を潰されたからでしょう」


「そうあって欲しいもんだな」


「総理、覚醒者を増やす為のキャンペーンを、芸能人を使って大々的に行なう予定です」


「それは、君に任せるよ」


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