第28話魔王の記憶




もう遅刻だと分かっていたが、駅に向かって走っていた。


しかし急に目の前が暗転して目覚めると、大きなフロアに倒れ込んでいた。

そこへ白髭を生やした老人がやってきて、覗き込みながら話しだした。


「ようこそ、この世界に来た召喚されし者よ。どうか魔王を倒しこの世界を救ってくれ」


どうやら異世界へ来てしまったようだった。

この世界は魔王によって人間がしいたげられ滅亡に向かっているらしい。

魔王を倒さないと元の世界に戻れないと言われ仕方なく戦う事にした。

召喚されし者は魔物を倒すと特殊な能力が貰える。

それを信じて魔物を倒し様々な能力を取得して戦い続けた。


俺にはユニークスキルがあり、魔物から取れる魔石で新たな魔物を誕生させる事ができた。

ゴブリンを誕生させキラーラビットも誕生させた。

RPGの定番だが、この世界には新しい魔物でそれなりに強かった。

ゴブリン1人に騎士5人でようやく戦えるレベルであった。

強い魔物からは、強い魔物を誕生させる事ができた。

巨大な魔物を誕生させ、勝てるかもと自信も付くようになった。

そして俺が誕生させた魔物は、魔物を捕食する事で己と同じ魔物を誕生させる事ができた。


俺は、俺だけの魔物の軍団を作り上げて魔王軍と戦う事なった。

それは長い月日が必要で、この世界での20年を費やしてしまった。

ここに来た時は10代で若かったが、今は30を超えたおっさんになってしまった。


目の前の魔王の城を落とせば、俺の世界へ帰れると思うと勇気が湧いてくる。

魔物達に号令の突撃を叫ぶと、魔物達は一斉に突撃を開始。


俺も魔法を使い、正門をぶち壊す。


長い戦いだった。魔王に俺の剣を突き刺した。

魔王は死に際に小さな声で語りだした。


「何故人間は欲深いのだ。俺と魔物がひっそり暮らす不毛の大地がそんなに欲しいのか? そうか人間は黄金が好きだったな、そんな事の為にこんな惨い事を・・・・・・」


魔王は事切れていた。

今の言葉は真実だったのか?

俺の中にも疑問が芽生えた。そうだここの人間の話しか聞いていなかった。


もう終わった事だ。俺は俺の世界に帰るんだ。


王国に戻る前に、勝利の宴会が開かれ大いに飲んで食べた。

騎士団の人達も互いに抱き付き喜んでいる。

勝利の歓声が響きわたり、喜びの絶頂を迎えている。


なんだか体がふら付く、「グフッ」何故だ多量の血を吹き出してしまった。

薄れる意識の中、騎士団長がポツリと話し出した。


「すまぬマコト、王命で仕方なかった。お前の世界に戻す事はできないんだ。王はそれを恐れて・・・仕方なかったんだ」


俺は怒りが込み上げ、魔物達に殺せと命令を発した。

騎士団は俺の魔物によって倒されるが、俺は何も感じなかった。


ただこんな事で俺は死にたくない。苦労して戦い続けたのにこんな結末になるなんて許せなかった。

俺は自分の胸を切裂き心臓を掴んで叫んだ。


「よみがえれ魔王よ」




・  ・  ・  ・  ・  ・


俺が目覚めると従魔達が喜んでいる。

夕日の空が紅く、戦いは終わった様に見えた。

しかしまだ終わっていない。必ず魔王は再びゲートを開くだろう。

それが魔王の目的であるからで、魔王を倒す以外終わる事はないだろう。


魔王はゲートを通りたかっただろう。

何らかの原因で通れない悔しさは、激しい思いとして俺にも伝わっていた。

そして今の魔王は人間であった理性が全くなくなっている。

己の欲がヒシヒシと伝わっていた。この世界に戻るだけの1つの欲。

そして、魔王は中国のゲートに注目していたのが幸いしていた。

岡山のゲートを注目していたなら、消滅させる事も出来なかっただろう。


「我が家へ帰るか」


俺はゲートを開いた。

あのゲートを結界で消滅させた事で、ゲートの力を奪ったみたいで。

目の前に高さ4メートル、横は3メートルもあるゲートが開いていた。

これならカースらは、翼をたためば余裕で通れそうで仲良く帰れる。

それを知ってか従魔達は喜んでゲートの中へ消えて行った。

俺も後に続きゲートを通った。



いつもの我が家に戻れた。

ゲートを開ける距離も2倍になり、いつか世界の反対側にも行けるかも知れない。


そしてゲートを通る前に投稿した内容を確認していた。

魔王の記憶の事もゲートを消滅させた事も投稿している。

この戦いの問題解決の糸口。

ゲートを通って魔王を倒さない限りこの戦いは続くだろうと投稿している。

しかしおとぎ話しの様な話で、信じてくれる人も少ないと思う。

それにしてもあの悲しい感情を、ダイレクトに受けた俺も精神疲労耐性のせいで狂う事はなかった。


俺のスマホは戦いの最中に壊してしまい使い物にならなくなった。

このスマホは道端で拾った物で、契約は解除されていないので使っている。



・  ・  ・  ・  ・  ・


アメリカの完全に遮断された会議室で議論がなされていた。


A「それで投稿者の正体は分かったのか?」


B「全力を挙げていますが、正体は掴めていません。佐藤の話だと従魔を扱う事が分かっています」


A「魔王の話が本当ならそんな人間もいるだろう」


C「その魔王を信じるのですか」


A「こんな状況下で信じるしかないだろう。これを君が説明できるのか」


C「説明は無理です。申し訳ありません」


D「人工衛星の画像でもゲートが消滅した事は確認が取れています」


A「その消滅の瞬間を撮れていないのか?」


D「赤穂の戦いは撮れているのですが、ゲートまでは撮れていません」


A「赤穂を見せろ」


モニターに映し出されると、一同から歓声がもれた。


A「これは凄い。あの大群をこんな時間で倒してしまうなんて。あの従魔が欲しい」


B「日本政府と交渉して何とかしましょう」


A「日本政府に出来るのか疑問だな」


B「やってみて損はない筈です。それと特殊派遣員の増員をお願いします」


A「分かったどうにかしよう」



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