アブノーマル 真相

「山田さん、これ出来上がったので差し上げます」

 山田姫凛は五名竜二から名刺の束を受け取った。五名が山田のために作ったものである。そこには『山田姫凛 やまだぷりん』とご丁寧にフルネームが書かれ、隣にピンクのリボンのマークが付いていた。山田はその名刺の束をビリビリと破っていった。

「あああああ、せっかく作ったのに……ひどいですね……」

「フルネーム書くなって前から言ってますよね、遊ばないでください」

 五名はお前が言うなと思いながら、山田が破り捨てた紙切れを拾い集めていた。

「そういえば、宮脇さん、あれから一回も来ていませんね」

「おや、患者さんの事が気になるなんて、山田さんらしくないですねえ」

 山田は口をつぐんだ。山田は宮脇成美の事が気になっていた。彼女こそが本当の精神疾患患者だと思ったからだ。山田は基本的に五名の手術内容を聞いていない。しかし、だいたい五名の手術を受けた患者は、その後何度か受診しにくるのだが、成美はあの後一度もクリニックを訪れる事はなかったので、心配になっていた。だいたい精神疾患の患者こそ、五名なんかの患者になるべきじゃない、と山田は考えていた。

「五名先生、宮脇さんにどんな手術をしたんですか?」

「宮脇さんは、うつ病で苦しんでおられるようでしたので、解離性同一性障害の手術を施しました。そちらの方が生きやすいかと思いまして」

「え……それって……」

「いわゆる二重人格になったということですね」

「そんな事できるんですか?」

「できますよ、私なら」

「先生ってやっぱり恐ろしい人間ですね」

「私は、宮脇さんの幸せを祈っているだけです」



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ジョーカーの患者たち 森川音湖(もりかわ ねこ) @neko-bassoon229

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