飛び出す

「うん……大丈夫」


気を失いそうだった。しっかり気を持たないと、いつ意識を失うか分からない。


「罠……罠か……」


翔はハンドルを強く握った。


「いや、大丈夫だ。なんでもない。なにかが起こるわけないんだ。僕の想定通り……この世に……旧魔術さえ分かっていれば……」


車が扉を蹴破った。

その部屋には重厚な机が置いてあり、壁は全て本棚になっていて、大量の本で埋め尽くされていた。


「油断するな」


翔が車から飛び降りる。

私も後に続いた。

一歩一歩歩いていく。

机に近づくと、誰かが机に突っ伏しているのが分かった。

翔が慎重に近づいたかと思うと、その身体に驚いたように飛びついた。


「兄貴? なんで……」


しばらくその様子を伺っていたが、翔は私の隣に来た。


「兄貴、眠ってる……どうすれば……」


その途端、誰かに右腕を掴まれた感覚があった。

腕を見ると、誰かの手の形が私の腕にくっきり付いている。

そして手の甲が裂ける。血はあまり出ず、オーロラ色に裂け目が輝いていた。


「痛ぁ……っ」


うめき声を上げると翔が振り向く。


「な、なんだそれ……! その傷跡は何だ!」


翔は私の手を取った。傷跡に手をかざしながら、ぶつくさ何か言っている。


「魔法によるものだろうが、こんな断面……この世のものとは……この世のもの?」


翔は顔を上げた。傷跡は塞がっていた。


「そ、そうだ…‥今どきこんな風に本で魔術書を取っておくなんて……これは全て旧魔術の…………だとしたら僕の知らない……事…………が………………」


翔は顔色を変えて本棚に飛びついた。

背表紙を端から端まで一気に指でなぞった。

ふわふわと、何冊かの本が浮き上がる。

それを翔は手に取った。

勢いよくページが開かれる。


「ここだ……! 他の世界に意識を移す……魔術……」

「え?」


翔は顔を上げた。そして机に強く本を叩きつける。


「見てくれ! 兄貴はこの術を使ったに違いない。これは……これは! 他の世界に……ここでは優の世界だろう……意識のみを飛ばして、旅に行けるという術だ。この術を使うには異世界との扉が開いていないといけない。僕が開いたゲートだ。僕はこんな事知らなかった……僕が直行の悪事を助けたんだ……」


翔は一気に話してしまうと頭を抱えた。


「だがどうやって……? 何が引き金になっているんだ」


そしてまた何かを呟きながら歩き始めた。

私は直行の座るデスクの周りを歩いた。

色々ものが置いてある。何か手がかりになるものはないだろうか。なにか……翔の手助けをしたいんだ。

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