「あれ?優寝てるのか?」

「緊張感のない奴だな」


陸恩が顔を覗きこんでいる。

翔の呆れたような声が聞こえた。


「寝てるの?もう着くんだけど」


車が止まる。


「てか着いてるよ。どうするの、これから」


体を起こす。あの夢はなんだったのだ。直行が居て……これからの事を不安に思う気持ちが見せた夢だろうか。

ダメだ、そんなことでは。

気持ちを強く持たないと。みんな、死んでしまう。


「どうするも何も、向こうから来てくれるさ。そのままでいて」


二人はただ黙って構える。耳を澄まし、目を凝らし、敵襲を待つ。

どのくらいそうしていただろうか。永遠にも一瞬にも思えた。

翔が小さく身体を動かした。

陸恩と海未は車の外に飛び出す。

扉が閉まると同時に爆音があたり一面を包み込む。


「よし、行こう」


翔は車のアクセルを思い切り踏み込んだ。車は凄まじいスピードで、警察署の扉に突っ込む。窓ガラスが割れて建物内に車が侵入する。


「海未と陸恩は!?」

「大丈夫!あとから来るさ」


ガシャガシャ騒々しい音を掻き鳴らして車は進んでいく。

目の前を人々が逃げ惑っている。


「これ本当に大丈夫なの!?」

「行くしかない!」


不思議な事に誰一人としてぶつからない。これも魔法のおかげなのか……?


「優!戦えるか?」


見ると窓の外に人が集まってきていた。なにかスケートボードのようなものに乗り、私たちと併走している。


「ど、どうやって……」

「車の周りを魔法が包み込むのをイメージしろ!」

「うん……」


車体に手を触れ、イメージする。

バチりと静電気が手のひらに走る。


「痛っ……」

「よし、行くぞ」


見るとスケートボードは皆消えていた。


「僕から援護をお願いしていて言うことではないんだけれどさ」

「うん?」

「こういう緊急時以外その力は使わないで欲しい。優はどう思っているか分からないけれど、その力はむやみやたらに使っていい力じゃない」

「うん……」


車は斜めになって階段を滑り上がる。


「この先に兄貴がいるはずなんだ……覚悟してくれ」

「うん」


辺りは水を打ったように静かだった。一般の職員は立ち入らない区域に来たのかもしれない。


「ここを曲がれば……」


キイィィンと頭の中で鳴り響く。頭が割れそうだった。意識が遠くなっていく。手を伸ばしてもそれは掴めない…………


「優!気を確かに!」


ぼんやりとした視界の中、翔が私の方へ手を伸ばす。私もそれを目掛けて手を伸ばした。

翔はふわりと助手席に私を置いた。


「大丈夫か?色々罠があるみたいだな」

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