夢想

「何?なんでため息なんて着くのよ」


海未が息を切らしながら言う。


「いや、なんでもない。とにかく急ごう」


車が飛んでくる。ふわふわと浮遊している。

海未が手を上げると車のドアが開いた。

皆次々に乗り込んでいく。

陸恩に押し込まれるように車に乗せられたかと思ったが、瞬間車が走り出した。


「とりあえず……これでいいのかな」


海未が投げ捨てるように言った。


「とりあえずはね。またすぐに場所がバレるさ。向かわないと、兄貴の所へ」

「うん」


淀みなく車は走る。

窓の外を見ようとして顔を上げると、陸恩に頭を押さえつけられた。


「顔を出すな」

「はい」


ピリピリとした空気感が車内に蔓延る。

なんだか眠くなってきてしまった。

こんな時に……眠くなるなんて……


「優……ちは…………か……な…………」


声が途切れ途切れに聞こえてくる。

ダメだ、もう意識が保てない。

眠りに堕ちた。

身体がふわふわと浮き上がり、また沈んでいく。

幾度もそれを繰り返して底に沈んだと思うと、そこで世界が途絶えた。

音も、光も届かない様な……


「…………ん……さん…………!」


声が聞こえる。


「北見さん!」

「ん……あ? あぁ、熱川あつかわか……」


のそりと目を開ける。


「熱川か……じゃないですよ!何寝てるんですか!」

「しょうがないよ昨日完徹だったんだから……それ書くの大変だったんだよ……」

「とにかく!世紀の大発見のはずなんです!これは!僕達が、この世界に魔術があることを証明するんですよ!」

「はいはい」

「なんで興味無さそうなんですか!?」

「別に……証明とかなんでもいいよ……魔術がらなかろうと別に私は困らないしさ」

「もー!そんなこと言わないでください!ほら、書けましたよ」

「ん」


床にはチョークで様々な線や図形が複雑に描かれている。

これが私の考えた異世界に繋がる魔法陣。

……あれ?この光景、どこかで見たような気が……

気のせいか……?


「それでは行きます!」


熱川が手を魔法陣にかざす。魔法陣を構成する線全てが白く光り出す。

激しい光に思わず目をつぶる。


「ここにいたのか」


声がして、目を開ける。

スーツに長髪、美しい立ち姿。

見たことあるな、この人。誰だっけ。


「あ……!!北見さん!成功ですよ!はじめまして……僕は……」


黒い物が長髪の方から飛び出して熱川にぶつかった。

熱川は壁まで飛ばされて動かなくなってしまった。


「思い出した……翔のお兄さんか」


あの日、扉の隙間から少しだけ見えた姿。

印象深い。忘れるわけが無い。


「私のことを分かるんだね。じゃあ、殺されることも想定済みだね」


直行は手を振り上げる。

まずい。死ぬ。

咄嗟に顔の前に出した手。黒曜石の指輪がはまっていた。

魔石……

雷を思い描き、念じる。

魔力よ。雷になれ。


辺りは白い光に包まれて、真っ白になった。

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