歩幅

「雷です」

「本当に雷か? あんな強い雷を出す奴見たことないぞ」

「雷だろう。これは優だから作れる雷」


翔はここぞとばかりに両手を広げて話し始める。


「優の世界では雷は魔力由来ではなく、電気由来らしい。だから僕達より電気の性質を理解している。雷の性質を理解している。だからそれは強い魔法となって顕在する」

「ということは、優の世界と俺らの世界の物質の性質は同じということか」

「多分な。たまたま世界が分岐しただけで、多分僕らの世界と優の世界は全く同じだ。魔術方式も、物理法則も。おそらく僕が電気式の何かを作ったとする。正常に機能するんだろうな、それは」

「でも、分かったからと言って、何か変わるわけでは無いじゃない。とにかく、ここから逃げないといけないんでしょう?」


海未は二人の間に割って入った。


「まぁ、そうだな。それを先に決めよう。脱線し過ぎだ」

「脱線し過ぎは言い過ぎだけどさ、まぁいいよ。兄貴のいる所、教えるな。陸恩。地図ある?」

「ああ」


陸恩は棚を開けると地図を取り出した。冊子になっていて、最新版らしい。


「えーっと……ここだよここ」


翔が一点を指す。


「ここ警察署じゃない!? どういうこと?」

「兄貴は警官だからここにいる」

「そうだけど……」

「ここにいる時を叩くしかない」

「無理だろう」


陸恩が落ち着いた声で言い放つ。


「お前旧魔術を使ったんだろう? 見つかれば捕まるぞ」

「あ……え? そんなにマズイの? 旧魔術」


陸恩の顔がこちらを向く。


「あぁ、正直優の存在もバレたらマズイ。捕まって裁判になれば無期懲役は確実だろうな」

「無期懲役!?」

「今まで前例がない訳じゃない。今までの結果が無期懲役だってことだ」

「そう……」


はぁ、と翔がため息をつく。


「そんなこと気にしていられないよ。それに、無期懲役の囚人たちは皆、獄中で不審死を遂げている」

「それがなんだって……」

「旧魔術を使わせたのも殺してるのも兄貴だ」


陸恩が息を呑んだ。


「信じられない!直行さんそんな人じゃないでしょ!」


海未が声を張り上げる。

キン、と部屋に声が響いた。


「そう思うのかい?海未。じゃあ警察署行って確かめに行こう」

「はぁ?」

「行こう。行くしかないんだ!行くしか!」


翔も声を張り上げる。

海未は飛び上がって動かなくなった。陸恩は目を丸くしている。


「とにかく行くしかないんだ、優のためにも」


ハナが唸り出した。


「ハナ……?どうした」


壁に向かって歯を剥き出して唸り声をあげる。


「まずいぞ、優を頼む!」


陸恩は私の肩を思い切り押す。よろめいたところを翔に抱き止められた。


「陸恩!」


爆発音、砂埃が室内に舞う。

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