覚悟

「うぅ……」


力が抜けて目を閉じる。


「翔!」

「何? これからこの痛みに優は耐えなければいけないんだ! 覚悟を決めなきゃいけないんだ! 悪いか!」

「悪いよ!」


海未が叫ぶ。


「勝手に旧魔術の魔法陣改造して! 優ちゃんを呼び寄せたのは誰? 翔、あんたでしょうが! 優ちゃんは巻き込まれてるだけなんだよ? それを何? 覚悟を決める? そんなの決まる訳無いじゃない。何勝手に言ってるの?」


海未が私の手を引いて翔から遠ざける。


「大丈夫……私は大丈夫なので……すみません」

「何謝ってるの? 優ちゃんは何も悪く無いんだって」

「いや……」


悪く無いのはわかる。海未の気持ちはとても嬉しい。こんな私に優しくしてくれて、庇ってくれて。でも翔だって悪くない。きっと、大層な魔法陣を作ったのには理由があるはずで、私はそれを信じなければならない。

私だって、もう巻き込まれてしまったのはしょうがない。諦めて覚悟を決めれば全ての話に収まりがつくのだ。


「本当に、大丈夫ですから」

「でも……!!」

「違う、そんな事を話している場合じゃない。これからの事を話し合うべきだ。優が大丈夫と言っているのだから大丈夫なんだよ」

「翔! 貴方はそうやって!!」


二人の間に陸恩が割って入った。


「いや、翔の言うことも一理あるな。覚悟どうこうではなく、このままだと命を失いかねない。実際、銃弾を受けている訳だしな」

「そう……それもそうなんだろうけど……」

「あの……本当に、気にしないでください。私もこれからのこと、話し合いたいですし」

「そう……だよね……」


海未は私から離れて、ソファに腰掛けた。

食事中のハナの首に手を回して、頭を撫でている。

陸恩がそれを確認してから話し始める。


「そもそも、なんで優が狙われているのか。なぜ他の世界から来ているのが分かるのか」

「それは僕が分かると思う」


翔が手を上げた。


「分かるのか? 何故?」

「一連の首謀者が兄貴だから」


海未が立ち上がった。ハナが驚いて食事をやめている。


「兄貴……? 直行なおゆきさん……?」

「そうだよ。あの愚直な実兄」

「どういうことだ」

「どう言うこともなにも、兄貴が全部悪いって事だ」


翔は地面に座り込む。


「あいつは、この世の全てが嫌いなんだ。全てを憎んでいる。理由を聞きたいだろうが、理由なんてない。強いて言えば、生きている事なんだろうな。だから、壊すことにしたんだと思う」

「壊す……?」

「文字通りの意味だよ。世界を破滅させる。建物や、命を全て壊すつもりだ。もちろんその他この世に存在するものを」

「いつから知っていた」

「割と前から。悲しいことに家族だからな、何かあいつが変な事をしているって事は分かるんだ。そんで、色々調べたって訳」

「なんで私たちに言わなかったの?」

「言わない。旧魔術が絡んでくるから。誰にも知られたくなかったんだ」

「それでも……」

「いや、無理だ。旧魔術の話は今は省かせてくれ。そんな話してる暇無いんだって」

「これからどうするか……だよね」


海未は観念したように頭を伏せた。

足元を見ると、大人しそうにハナが座っていた。私の足にそっと寄り添っている。

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