モデルファミリー

1話 誰もがうらやむ理想の家族

　～～パラララン♪

　クラシカルな音楽と共に画面一杯に宇宙から見た地球の映像が映し出される。それがたちまち大気圏を突入し、日本へ近づいたかと思うと、最終的に都内のとある一軒家にズームインした。

　西洋風のアレンジが利いた白い家。小さいが花と緑に溢れた庭がある。

　ＴＶ局側の演出だろう、ほど良いフォーカスが効かせてあるため、近くで見ると薄汚れてペンキが剥げかけている家も、新築ばりの白さを誇張している。

　やがて映像は「ＳＥＲＡＴＡ」と洒落たローマ字表記の表札が掛かった玄関扉を通り抜け、家の中へと進入する。

　室内は吹き抜けで、全体的に白を基調とした清潔な内装だ。

　部屋の奥から笑い声がする。

　カメラは廊下を進み、曇りガラスの扉を開ける。

　扉の向こうは20畳ほどの広いリビングになっており、楽しそうに紅茶を飲む一家の姿が映し出された。

　映像が一人の男性を大写しにし、そこで固定する

　――――ここでナレーションが入る。

『世良田一家の大黒柱、世良田元樹（せらたもとき）、45歳。大手通販会社勤務。人当たりがよく人望があり面倒見がよい性格で、女性社員のみならず部下にも人気がある。昔から愛妻家で有名』

　ここで映像が動き、お盆に紅茶を載せて微笑みながら振向いた女性を映す。

『元樹の妻・栄子（えいこ）、42歳。22年前に受付嬢をしていた際、夫と出会う。彼の熱心なプロポーズに根負けして22歳で結婚。3人の子を授かる。家庭的な良き妻である』

　そして次にテーブルの上で新聞に目を通している、涼しげな目元の青年を映し出す。

『長男・勇治（ゆうじ）18歳。進学校で名高いＭ高校3年生。学校では常にトップクラスの成績を誇り、卒業後はアメリカへ留学し国際弁護士を目指す』

　次に、勇治の前に座っているロングヘアーの美少女が映し出される。ぴったりめの服から伺い知ることのできる形のよい胸のラインが艶めかしい。

『長女・美園（みその）、16歳。兄と同じ県立Ｍ高校2年生。その容姿の美しさは母親譲り。昨年のミスＭ高という経歴を持ち、生徒会では副会長の地位で学校運営にも携わっている。有志によるファンクラブも結成され、才女としても有名』

　次にパソコンの前でネットゲームに夢中になっている子供の姿を背後から捉える。

『次男・誠（まこと）、11歳。小学6年生。誰からも愛される末っ子君。つぶらな瞳のせいか年齢よりも幼く見えるが、彼の笑顔は母性本能を激しく擽る。趣味はインターネットとゲーム』

　次に、窓辺の席で囲碁に興じる老夫婦の姿が映し出される。

『元樹の父母。ケンジ・77歳。その妻・タキ、70歳。共に朗らかな性格で、近所でも評判の仲良し夫婦』

　この後、映像は地面に向けられ、部屋の中をうろうろ彷徨（さまよ）った末、食卓の下に潜り込む。1匹の小型犬がおなかを向けて眠っている。

『マルチーズ・あんこ。4歳になるオス犬。大人しい性格で恥ずかしがり屋。特に末っ子の誠と相性が良い。世良田一家になくてはならないマスコット犬』

そして最後に、カメラは勇治の横に座って勇治にしきりに何か話しかけている、2人の少女を映し出す。

『庄司夏美（しょうじなつみ）・18歳。その妹・千秋（ちあき）、8歳。世良田家のご近所さん。幼馴染み同士の勇治と夏美は同じ高校に通う恋人同士』

　全ての人物紹介を終え、映像は再び世良田一家の日常を映し出し、画面は暗転した。