消えないパソコン

トマトも柄

第1話 消えないパソコン

この学校には、不思議な噂が広がっている。

その噂とは、コンピューター室に電源が切れないパソコンがあるという噂である。

そのパソコンは一晩中、電源が付いており、中から何かが出てくるという話である。


 「はぁ~。 くだらねぇ」

 学生服を着た男子生徒は、まったくその話を信用していなかった。

 「本当にあるのよ!」

 男子生徒のうんざりした態度とは裏腹に、女子生徒は興奮して話している。

「だって、この前は静子が見たって言うのよ! ね! 静子しずこ!」

 女子生徒は後ろに立っている眼鏡をかけている女の子に同意を求める。

 静子と言われた少女は、静かに頷いた。

「お前が強要するように言っただけじゃないのか?」

「違うわよ!! たけるはどうして信じないの!?」

「無理を言うな。 俺は自分で見たものしか信じない。 そんな噂でたらめだろ?」

「だ~か~ら~!」

 猛が言ったことに、女子生徒が大声で反論する。

 そこに、静子が、

「さくらちゃん。 もういいの。 私の気のせいかもしれないし」

「駄目よ! この男は静子が言っているのを放っておくって言うのよ!」

「そこまでは言ってないだろ」

「じゃあ確かめに行くわよ!」

 その発言に二人は驚く。

「確かめるってどうやってだよ?」

「今日の放課後にコンピューター室に入るのよ」

「放課後はパソコン部が使っているだろが。 入れないじゃないか」

 猛の言った言葉にさくらは言葉を詰まらせた。

「あの……」

 話の横で静子は申し訳なさそうに手を上げて、

「私、パソコン部の部長だから鍵を預かることになっているの。 その、皆が帰った後なら少しの時間なら延ばせるのだけど……」

 その話を聞き、二人は顔を見合させた。

「じゃあ、放課後いけるね!」

 三人は頷き、放課後にコンピューター室に入るのを決行した。


 夕方。

 夕方とは言ってももう夜に近い状態になっており、夕日もほとんど見えない時間になっている。 コンピューター室からの明かりが漏れているのが分かる位に暗くなっている。

「お疲れ様です」

 最後の男子生徒がコンピューター室から出て行き、静子は周りに誰もいないことを確認してから携帯電話を取り出し、電話をかけた。

 その電話をかけてから数分で、猛とさくらがコンピューター室に入ってきた。

 二人がコンピューター室に入って、目に入ったのが数十台のパソコンである。

「お待たせ」

 そう言葉の発した方に、二人は目を向ける。

 静子が部屋の端の方で、静かに立っていた。

 二人の反応を見て、静子はここよと言わんばかりに目の前のパソコンに指を指した。

 二人は指の指したパソコンに近づいた。

 パソコンの周りを見ても、何もおかしいところはない。

 というより、物が何も無くて調べようがなかったのだ。

 そして、三人はパソコンを起動してみた。

 ファンが動き出し、正常に動き始めた。

 そして、トップページが開いたところで電源を切ってみた。

 パソコンは何事も無く、シャットダウンの文字が出て、電源が切れた。

「普通に動くじゃないか」

「まだ分からないわよ。 まだ今動かしたばかりなのだから。 もう一回付けるわよ」

 そう言って、さくらは再び電源を付けた。

 パソコンは起動を始めた。

 パソコンは普通にトップページまで付いて、異常は何も起きない。

「やっぱりガセ情報じゃないか。 こんなことしてもキリがないから帰ろうぜ」

 猛の言葉に、二人は落胆したかのように頷き、帰ろうとパソコンの電源を消そうとした。

 すると、

「あれ? 消えない」

 さくらはパソコンのボタンを何回も押しているが、消えようとしない。

 それどころか、画面の中のマウスが勝手に動き出し、ネットを開いていく。

 そのネットの先には、一つの動画につながった。

 その動画は映像が写っていなく、音だけの動画だった。

 その音はノイズだらけの音の中、この一言だけはっきり聞き取れた。

「……タズ……ゲテ」

 猛とさくらは驚きのあまりに声も出せない状態になっていた。

 たった一人を除いては……。

「ほら、言った通りでしょ」

 意外な言葉を放ったのは、静子だった。

 怖がりもせず、驚きもせず、冷静に言ったのだ。

「静子。 怖くないの?」

 さくらが怯えながら聞くと、

「全然。 だって私、そのパソコンの意味も知っているし」

 驚くほどに淡々と返答された。

「じゃあ、これはどういう意味だ?」

 猛がそう聞くと、

「簡単よ。 助けを求めているのよ。 あなた達に」

「なんで俺達がパソコンに助けを求められないといけないのだ? 意味が分からないぞ」

「だって、あなた達の友達なんでしょ? ね? 静子」

 静子はパソコンに向かって言った。

 まるで、私は静子ではありませんと言いたげな言い方だった。

 怖がっているさくらは未だに声を出せない状態だ。

 けれど、何を言いたいかは猛には分かった。

 さくらの代弁として声を出した。

「お前、誰だ?」

「私? 私は静子であって静子でない存在……かな?」

「は!? どういうことだよ!」

 静子の言葉に苛立ちを隠しきれない様子で猛は言った。

「あなた達が友達だと言っている静子はそこにいるもの」

 静子はそう言って、パソコンを指差した。

「そして、あなたは誰? と言う質問だったわね。 私は……そうね。 静子のコピーってとこかしら。 体はあの子のからお借りしたわ。 私の正体はパソコンよ。 そうね。 名前はクワイネってことにするわ」

「どうして……」

 さくらは怯えながら小さな声を出す。

「どうしてって? 一度、外の世界を見たかったのよ。 もう、データだけの中の世界なんていやだったからね」

 クワイネは笑みをこぼしながら言った。

 その笑みは、悪魔の微笑みのような笑顔だ。

「外の世界って素晴らしいね! この世界をつまらないとか言っているのはあんた達人間だけだよ! あの子はこの世界を嫌っていたから、私が代わりに体を頂いたの!」

「私は静子と話したいの! 静子に代わってよ!」

「それ。 もう出来ないの。 一度、入れ替わるともう替われないの。 でも、話をするのはいけるかもね……」

 クワイネがそう言ったとき、数台のパソコンが不意に付き始めた。

 そのパソコン画面はトップページが付き、そして、画面の中から青白い手が出てきた。

「ひっ!」

 そう言って、二人はパソコンから急いで離れて、コンピューター室から出ようとする。

 しかし、なにか硬い物でも挟んでいるかのように、ドアが開こうとしない。

「何で開かないの!?」

「私が閉じ込めたからよ……」

 二人の問いにクワイネが答える。

「だって、もう入った時点で決まっていたの。 あなた達はもう出られない」

「嘘よ!!」

 さくらはそう言って、ドアを蹴破ろうとしている。

 しかし、ドアはまったく壊れる気配を見せなかった。

 そうしている間に、青白い手はどんどん二人に近づいてくる。

 そして、青白い手は二人の肩を掴んだ。

 二人は断末魔を上げた。




 その出来事から、数分が過ぎた。

 教師はコンピューター室の鍵の返却が遅いので、コンピューター室に向かうことになった。

 教師がコンピューター室に着くと、まだ明かりの付いた状態が窓から見えている。

 教師がドアを開けると、一つのコンピューターに群がる三人の姿が見えた。

 教師がそのまま近づき、

「こらっ!」

「あ!」

 教師の一喝に三人は気付き、すぐに頭を下げた。

「お~い! 情報を見たいのなら家で見ろよ~」

「すみません。」

「今度からは昼休みに私のとこに来なさい。 昼休みの間だけだったら使えるようにしてあげるから」

 教師は先程の一喝とは裏腹に、優しい笑顔で言った。

「はい! ありがとうございます!」

 三人は感謝の気持ちで頭を下げた。

 そして、四人は外に向かった。

 猛とさくらは笑みをこぼし、

「この体、大切に使わして貰うね」

 そして、コンピューター室のドアを閉めた。

 彼らが外に出て、しばらく経った後……。 

 真っ暗なコンピューター室に一台のパソコンが付き、複数の声がこう発言していた。

「……ダズ……ゲテ……」

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