第20話 恋愛工学
2018年。一月。大学生活も残すところ、今年の三月までになる。必要な単位を取り切れば、めでたく卒業となるハカドル。彼は三単位を落として留年したので、今、受けている授業は三つだけ。余裕を持って多めに授業を履修しようとは思わなかった。面倒くさいのだ。コツコツと通い、出席さえすれば余裕で単位のもらえる授業。そこは私大文系。難関の理系と大違いで、真面目に通えばだいたい単位が出る。
なぜハカドルは大学を留年したのか?
人間関係の不和と病気に原因があった。在学中にストレスで帯状疱疹になり、大学を休んだこともあれば、ただ単に行きたくなくてパチンコ通いしたこともあった。薬の影響で眠くて眠くて行けないこともあった。障害者に通学のハードルは高かった。
大学の授業はシステム上、6回以上休めば単位がもらえなくなる。普通の人は一回も休まないのだが、ハカドルのような落伍者は、「なんだ、5回まで休めるのか」と安堵してしまう。ゆるみきった贅肉と同等の慢心。結局、1、2回まじめに行くと後は行かなくなってしまう。
友達もいなくなり、ゼミの陽キャノリについていけず、最後は図書館の長老になり果てる。まあ、老後に学びなおしたいと、おじいちゃんの大学生もいたことにはいたが、ハカドルに話しかけるコミュ力はない。結局、一人ぼっちライフを楽しむことになる。
大学に入る前までは、キョロ充だった。ドラクエのパーティーみたいに誰かのうしろをついていかなければ移動できなかった。A型特有の、群れを成さねば行動できぬ存在。大学の5年間でぼっちを経験し、ハカドルは成長した。孤独と孤高を取り間違えることなく、一人行動を開始した。周りを見渡してみよう。大学の一、二年生なんて群れてばかりだ。そもそも大学の一、二年生で単位を取り終えてしまうので、三、四年生になるとゼミ以外、大学から去り、就活に専念するのが普通なのだが。ハカドルは孤高の五年生を気取っていた。
まあ、戯言はこの辺で。
ハカドルはモテるための行動を開始する。
――非モテコミットをするな!
非モテコミットとは、一人の女性を一途に愛し、がっつりアピールすることである。一人の女に尽くし、毎日ラインで好意をアピールし、好き好き、言うこと。なぜこれがダメなのかというと、女性は余裕のない男性が嫌いだからだ。また、女性は、友達になると恋愛対象として見れなくなってしまう。いきなり友達が愛の告白をしてきても受け入れることはできない。一途な恋愛、フレンドシップ戦略は、恋愛工学では最悪の一手になる。一度、女性に友達と見なされれば、恋人候補に昇格するのは、難しい。
では、女性と余裕のある会話ができるようになるにはどうすればいいのか?
答えは簡単。複数の女性にアプローチすることだ。
「自分にはこの人しかいない!」と思い詰めてしまうと、非モテコミットの一歩になってしまう。複数の女性にアプローチすることで、冷静になれます。もちろんコミュニティの同じところで複数の女性にアタックすると、場が乱れますので、修羅場を回避するために、コミュニティを分けてアプローチしてください。
恋愛工学には、こう書かれていた。
え、読者の皆様は、いつも女性と話すときは冷静である?
そんなの知りません。高校を卒業するまで、まともに女子と話したことのない童貞のハカドルには、女子と話すという行為は相当のハードルの高い行為だった。
恋愛工学的に、とにかく数を打たねばならない。
ハカドルは女子に話しかけることにした。
兼六園の近くで補習授業がある。私大文系だけでなく、私大理系の学生もいた。
金沢の私大文系と私大理系が集まって授業を受ける、と書くと、大学がバレてしまうそうだったが、そこはご愛嬌。東金沢駅から通っているのだから、どう考えてもバレる。とにかく、いろんな大学の学生や社会人が混じって授業を受けた。
授業の内容は、疑問に思ったことを紙に書いて、それについて調べて発表するという形式だった。三人から四人のグループを組んで発表する。最初、ハカドルは男の子のチームでグループを組んだ。一人で居てもぼっちなので、自分からグループに参加を申し込んで入れてもらった。25歳であることも明かした。私大文系で留年は珍しいが、私大理系で留年は当たり前のようで、世の中の残酷さを痛感した。
授業は順調に進んだのだけれど、問題が起きた。同じグループの男子が来なくなった。当然かもしれない。ここは落伍者の集まり。大学で単位を落としたものが寄せ鍋になって、ごった煮された空間なのだ。来なくなって当然かもしれない。
ハカドルは二回目の留年になりたくなかったので、まじめに通った。
グループ分けは、前期と後期で二回あった。前期は男子チームで組み、同じグループの男子が来なくなるというハプニングがあったものの、なんとか成功した。そして、二回目のグループ分け。恋愛工学を学んだハカドルは、もちろん行動を起こす。行動を起こさなければ本を読んだ意味がない。ぼっちそうな女子をターゲットにグループに入れてもらうことにした。
なんとか、ハカドル一人、女子二人の三人グループを作ることに成功した。
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