第18話 スランプ突入。本では解決しないこと

 ラノベ作家を目指しているハカドル。


「書けない……」


 スランプに突入した。小説家志望のスランプは、ひどいもので書けなくなったら、一年は書けない。ハカドルは長いスランプを一度経験しており、その時は、アニメを見まくった。一日12話。6時間以上、アニメを見る生活を送っていた。ちょうどhuluやdアニメストアなど月額課金のサブスクリプションのアニメ見放題サイトが立ち上がった時期だった。画期的だった。今まで、ネットの違法視聴しか深夜アニメを見るすべがなかったオタクが、新しい境地を手に入れた瞬間だった。誰だって犯罪は犯したくない。少しお金を払えば、合法で見れるのならば喜んでお金を払う。


 昔、オタクは軽蔑の象徴だった。犯罪をするのはアニメオタク、エロゲオタク、ロリコン。マスメディアの印象操作に踊らされ、中学生だったハカドルは女子から軽蔑の目で見られた。それでもラノベが大好きで、ずっと教室で、涼宮ハルヒの憂鬱、を読んでいたのは、懐かしい。高校一年生で、keyのAirに出会い、エロゲに目覚めて18禁止だから、高校では野球をしながら隠れオタクをやっていた。


 隠れキリシタンだ。


 表と裏を使い分ける生活。いつもは野球部の陽キャで、家に帰ってはオタッキーな生活を楽しむ陰キャ。陰陽を使い分ける生活は無理がたたったのかもしれない。うつ病とあいまって、病気になってしまった。


 誰だっていじめられるのが怖い。オタクはいじめられる。陰キャはいじめられる。チー牛はいじめられる。今は、だいぶアニメに対しての風当たりが弱くなったが、昔はひどかった。ラノベを読んでいるだけで女子に白い眼をされた。


 と、昔話はこの辺にしておこう。


 問題はスランプだ。ハカドルはたまにスランプになるが、今回はひどかった。毎日1時間以上書くと目標を決めたのに、達成できなかった。プロになれば毎日5時間、10時間が当たり前の世界なのに、1時間だけじゃ雑魚同然。1時間も書けなければ、プロになれない。相当厳しい世界だ。


 小説家になるには――小説投稿サイトに投稿すればみんなアマチュア作家なのだが――いわゆる小説でお金を稼ぐプロになるには、長編小説を書かなければならない。10万文字の小説を書くのに、1時間1000文字と考えて、100時間かかる。執筆だけで100時間。ハカドルは、三か月かけなければならい。執筆だけで三か月なのだから、加えて、構想を練ったり校正をしたり、執筆以外にもほかの作業がある。


 とにもかくにも、すっごい時間を使うのが小説を書くという作業だった。


 スランプなんてザラ。30時間かけて書いた3万文字の小説を消したことなんて一度や二度ではない。何度もある。書いては消して、書いては消しての繰り返し。小説は誰でも書ける分、参入障壁が低く競争倍率が高い。新人賞で受賞し、本として出すには、1000倍とか2000倍の倍率をクリアしなければならない。


 18から25歳まで7年間、小説を続けている。新人賞に何回も出している。下読みが読む一次審査から、二次審査、三次審査、プロが読む最終審査まであるが、ハカドルは一次審査をクリアしたことがない。いつも一次予選で落ちてしまう。


 もう才能なんてないんじゃないのか? 自問自答する。


 スランプを抜け出そうと、本にすがったことがある。


 本は90%の悩みを解決するが、スポーツや芸術分野では無力だ。コツコツやればある程度、スポーツで成果を出すことはできるが、誰でも本を読んでイチローになれるわけではない。小説家になるための本を読んでも、書け書け書け、としか書かれていない。詳しくは、勉強、行動、継続、と同じで、プロの小説家になるには、読書して書いてそれを毎日継続することだ。加えて、PDCAサイクルを回すために、誰かに読んでもらい感想をもらえばOKだ。本当に、毎日書くことがプロの小説家になる一番の近道だった。


 ラノベ作家になるためのハウツー本を10冊以上読んだ。けれども、まったく結果が出ない。もう、本当に、どうしようもない。


 小説家になるための本やイラストレーターになるための本はたくさんあるが、10冊20冊読んでもプロにはなれないのだ。プロになるためには、行動力と運が必要になってくる。書いて書いて書きまくる。読んで読んで読みまくる。それしかない。


「あああー!! ダメだ、ダメだ、ダメだ。ミサキのおかげで自己肯定感が爆上がりしたけど、小説家になれる未来が思い描けない。地獄言葉をあえて使うけど、なれない、無理だ、ダメだ。スランプ脱出できないよぉおおおおおお!!」


 ついてない、ついてない、ついてない。小説家として結果の出ない7年間を送ったハカドルは、弱気になり、弱音を吐いてしまう。ついてない、ついてない、ついてない。地獄言葉を使うと気持ち悪くなってくる。


 弱気になったときは無理やり天国言葉を使うことにした。本にそう書いてあった。


「愛してます、ついてる、うれしい・楽しい、感謝してます、しあわせ、ありがとう、ゆるします」


 地獄言葉は人生をつらくし、天国言葉を人生を前向きにする。


 ついてる、ついてる、ついてる。ハカドルはプロの小説家になれる! と毎日コツコツ努力することを誓う。本の力だ。元気が出てきた。例え、凡人であったとしても努力するものは救われる、と手塚治虫もファウストの中で言っている。


 誠。誠心誠意。誠実に生きれば、それだけで十分なのだ。無理に天才になる必要はない。凡人は凡人らしく、趣味で小説を楽しめばいい。どうせ本を読んでお金の勉強をしていれば嫌でもお金持ちになってしまう。投資で1000万円貯めて、豊かな老後生活を暮らす。そう紙に書いて行動しているのだ。夢は絶対に叶う。


 小説は趣味。小説は趣味。小説は趣味。全力で楽しもうと宣言した。それでもスランプは脱出できないが。


 天才より努力を続ける者が勝つ。努力を続ける者より楽しむ者が勝つ。


 幸せな人が一番高いパフォーマンスを発揮するのは、分かり切っている。ハカドルは今が幸せで、楽しんで小説を書こうと思った。本に、小説家になる方法は山のようにあり、どれを読んでも今すぐプロの小説家にはなれないが、ハカドルは精一杯、人生を楽しもうと思った。いずれ小説家になれる。もしかしたら先に自己啓発書やビジネス書を出版しているかもしれない。人生は楽しいのだ。


 ついてる、ついてる、ついてる。幸せだ。

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