第16話 100冊の本
10月。ミサキと出会って、四か月が過ぎた。ブログによる自己アフィリエイトでFX口座を何個か開き、3万円手に入れた。ブログで100円稼いだ。インデックス投資で、毎月1万円以上入金し、5万円の資産ができた。
お金があるということはなんて素晴らしいのだろうか。たった5万円、されど5万円。いつもパチンコで負けていた、借金だらけのハカドルに、資産というものができた。自己肯定感が爆上がりした。
仕送りは電話で親に泣きついて、月10万円にしてもらった。この10万円から食費や娯楽費、自己投資をねん出する。パチンコをするのに心に余裕ができ、今まで以上に楽しめるようになった。勝てるようになったとは言わない。パチンコは99%の人が全体で負けるようにできている悪魔の遊びだ。ギャンブルですらない。遊戯。電子ドラッグであり、地獄の底なし沼だ。
四か月で自己啓発書やビジネス書を100冊以上読んだ。お金の勉強が多かった気がする。ノートにちょっとまとめてみた。
まず最初は、
勉強する。行動する。継続する。
これはどの本にも書かれていて、コツコツと努力を継続する大切さを説いていた。インプットとアウトプットであり、アウトプットの量を8割にしなさい、など。本によって様々な解釈がなされていた。
ミサキの人生攻略ノートにも記されている。かなり参考になるフレーズだ。大事なので、もう一度、メモった。
勉強する。行動する。継続する。
次は、本を読む、人に会う、旅をする。そういえばミサキと兼六園デートするのをすっぽかしたことを思いだした。反省する。今は、ギャンブル依存症で他人の約束を反故にすることはない。心に余裕ができ、イベントの日になんとしても勝たなければならないという強迫観念が消えた。
娯楽は娯楽だ。趣味とも呼ぶ。生活に支障をきたさない程度に、ほどほどに遊ぶ。これ大事。
ある本には、パチンコをせず、ソシャゲ課金をせず、毎日勉強するだけで上位10%のビジネスパーソンになれる、と書かれた本もあった。そういえば、これもミサキにならっていた。
お金の本を読んで、びっくりしたのが、どの本にも、初心者は、株をするならば、インデックス投資をすすめていた。もし中級者くらいになったら、コア・サテライト戦略で、サテライトの部分をナスダックにしたり、個別株にしたり、リスクを取ってもよい、と書かれていた。ハカドルは今度は日本株の高配当株をすることに決めた。
100冊読んで、特に大事だと思ったお金の本は、バビロンの大富豪、金持ち父さん貧乏父さんの二冊だ。
毎月、ハカドルは親の仕送りで10万円もらえる。そのうち、10%を投資に回すのだ。1万円を老後まで絶対に使わない証券口座に入れ、インデックス投資をすれば、お金はみるみる増えていった。また、資産と負債の違いを理解し、家や車、不必要な保険やスマホの料金を見直した。資産とは、毎月お金を持ってくるものであり、負債とは毎月お金を取っていくものだ。日本人は、家や車を資産と考えがちだが、本書によると、家や車は固定資産税やガソリン代、車検や駐車場代がかかるので負債に分類された。
副業をして小さく起業することの大切さを知った。スモールスタートだ。ミサキに株とブログを紹介してもらって本当に良かったと感じている。
9万円の生活でもなんとかなった。結局、大学で新しい友達を見つけることはできなかったけれど、毎日ミサキが来てくれたので助かった。ミサキは先生であり、良き友でもあった。心の支えになっていた。
100冊読んだ感じ、こんなところだろうか。
本を読む前は、友達100人作らなければならない、と焦っていたが、今は違う。
愛せなければ通過せよ。ニーチェの言葉だ。
そりの合わない友達や恋人は、縁を切ることをおすすめする。離れた方が、お互いがハッピーになれる。愛せない場合は通り過ぎよ、だ。
無理に周りに合わせなくていい。無理に友達や彼女を作らなくてもいい。“世間体を気にしなくてもいい”と多くの本が教えてくれた。自分のやりたいこと、好きなことをやりなさい、と。
だからハカドルは小説家を目指してフリーターになることを誓った。多くの同級生が安定した職業を選ぶ中、ハカドルはどうしても小説が書きたかった。むろん働きながらでも小説は書ける。しかし、就職活動をすること自体、心の底から嫌になった。
逃げてもいいんだよ、と100冊の本は教えてくれた。
最後に、池澤夏樹さんのスティル・ライフから紹介する。
――寿命が千年ないのに、ぼくは何から手を付けていいかわからなかった。
何をすればいいのだろう。
仮に、とりあえず、今のところは、しばらくの間は、アルバイトでもして様子を見る。そういうことだ。
十年先に何をやっているかを今すぐに決めろというのはずいぶん理不尽な要求だと思って、ぼくは何も決めなかった。
社会は早く決めた奴の方を優先するらしかったが、それはしかたのないことだ。ぼくは、とりあえず、迷っている方を選んだ。――
ハカドルは迷っている方を選んだ。
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